[携帯モード] [URL送信]

*vivid vermilion
10

一発、渾身の拳が瀬良の顔を殴る。ただ俺の拳一発では病院送りどころか気絶させることすら不可能で、瀬良はただその場に少しだけよろめいた程度で笑った。
「野蛮だな、いいとこの坊っちゃん高校生が二人揃って一般人を殴り飛ばすだなんて」
そうしてその視線を森の中へ映す。そこには、ビデオカメラを持った一人の男子生徒が。
「……」
そんなことだろうと思っていた。
じろりと睨むと会長と同じ制服を着た生徒はひっと怯えた声を出す。きっとあれは一般生徒だ。報道部か何かだろうか、瀬良に脅されたか買収されたにちがいない。
「お前…」
「無駄だよ会長サマ。どうせ他にも手を隠してるに決まってる」
だから、あの一般生徒を攻撃したって仕方ないことだ。
だから、俺の攻撃対象は変わらない。
だから。
「あなたはそこで見ててよ。余計な手出しをするなよ。俺は、そいつをぶっ飛ばすから」
前に出て瀬良に向かう。会長サマは上坂くんの一発だけだからどうとでもなる。さっきのは不意討ちで上坂くんに邪魔されたから驚いていたけど、敵意を以て、殴ろうと思って殴ってしまえば編集する必要もなくなってしまう。
今ならまだ、あのビデオカメラを奪って全映像を流してしまえば会長サマはセーフだろう。王道学園らしく、生徒は基本的には会長サマの味方だろうしね。
「でも、それじゃお前が…」
そんな俺の考えを知ってか知らずか、会長サマは焦ったように俺を止める。だけどさ。
「やだなあ、元から辞める人間に心配なんて無用だよ」
俺は笑って、飛び出した。
瀬良自体は喧嘩も強いわけではない。前に病院送りにしてから強くなったようにも見えなければ、自らを強くするような奴でもないから。だからボコボコにされても俺が後で痛い目見ればそれでいいんだろ。
いいぜ、望み通りにしてやるよ。
俺は腕を振り上げて、
「違う、嘉山!」
「!?」
しかし、再び邪魔された。誰に?
「会長サマ…」
驚いて見上げるが俺を引き寄せて戻した会長サマの視線は前を睨んでいる。つられて視線を移せば、舌打ちが聞こえた。上からも、前からも。
「総長…」
「邪魔すんなよ、タツ」
篠原。目の前に、俺を殴り損ねた篠原がいた。
「ッ花ちゃん!?」
「心配しなくても、あのクソ野郎はまだピンピンしてやがるよ」
すぐに花ちゃんと篠原がやりあっていた方を見ると、別の奴からの攻撃を凌ぎながらこっちに来ようとしている花ちゃん。だけど、篠原とやりあって疲労はしているように見える。普通なら、あんな奴ら一発なのに。
そしてそれよりも。俺の方に篠原が来たのが、問題だ。
「痛い目にあいたくはないって言ったろ?」
「瀬良…」
「いい加減気付けよ。詰んでるんだよ。花巻もすぐに力尽きる。お前じゃ篠原には敵わない。後ろの会長サマくんは喧嘩するわけにはいかない」
「……」
「泣いて許しを乞えば、許してやるよ」
瀬良は笑う。
「あのときはごめんなさい、もう逆らいませんって言えよ」
「謝んのは、てめぇだろ」
「ほう?」
「姉様をあんな風にしやがって」
「確かに、月乃がああなったのは俺が原因だ」
嘲るように。俺達の苦悩も何も知らないみたいな顔をして。
「だけどさ。それは、襲われる月乃がバカだっただけだろ?」
「……てめえ」
「お前らは俺には敵わないんだよ」
瀬良は笑う。
「ほら、謝れ。バカなくせにでしゃばってごめんなさいって」
俺は、
「死んでも言うかよ、死ねクズ」
笑う。

たとえば。
俺がボコボコに殴られて。
地面に無様に這いつくばって。
可哀想な目に遭えば。
「そうかよ」
こいつを貶めることくらいはできんじゃねーのって思うわけだよ。
お前じゃないけどさ、やり口はいくらでもあんだよ。
俺だって、同じようにクズなんだから。
「じゃあ死ねよ!」

「夕歩!!」

誰の声かわからない。そんな声を聞きながら俺は、バチンと痛々しい音を聞いた。


[*前へ][次へ#]

17/21ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!