小説2 ある日の午後3時(ライディス) ディスト様、お茶をどうぞ。 執務室内の研究所で仕事に夢中で、辺りは書類や設計図や音機関の部品で埋め尽くされている。 そんな中に居る私に向かって、穏やかに微笑み、良い香りのする紅茶の入ったティーポットが乗ったトレイを傍らに置く付き人。 「ありがとうございす。」 私はそうして初めて現実に戻る事が出来たような気持ちで、差し出された紅茶を口に含むのだ。 「ディスト様、あまり顔色が良ろしく無いです…無理をなさらないで下さい。」 心の底から私の事を心配しているであろう表情と口調で青年は言う。 「私は大丈夫ですから… 」 今にも泣きそうなまだ少年の面影の残る彼にそう告げた刹那。 そっと頬に口付けられた。 そしてお互いの瞳が合う。 嗚呼、なんて純粋な瞳。 こんなにも真摯に私を想ってくれる存在。 いっそこのまま、彼の想いを受け入れる事が出来たなら。 私は苦しむ事もなかっただろうに… 「失礼致しました。」 慌てるように踵を返して出ていく青年の姿を見送りながら。 私は再び何も無かったかのようにティーカップを手にして口に運ぶ。 もし、貴方が毒入りの紅茶を用意していたのなら。 私は永遠に貴方の物になっていたでしょうね。 それでも良いのにと思いながら、そうする筈も無い純粋な彼の想いを踏みにじって。 私はあの男の事ばかりを考えているのだ。 終 [*前へ][次へ#] |