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小説2
崩壊
みよすべての罪はしるされたり

されどすべては我にあらざりき



何時からだろう?

時々おまえが壊れるようになったのは。

まるで、何もかも放棄してしまったかのように動きを止めて。

突然涙を流し始めたりする。

顔を覗き込んでみても、その瞳には何も映そうとはせず、小さな声で何かを呟いている。

かろうじて聞き取れたおまえの言葉の断片。



「許して」



今更おまえは許されようとしているというのか?


そんなことで救われはしないのに、お前は涙を流し続ける。


おまえが自分の意思で奪ったもの全て。

それを後悔しても遅いというのに。

そんな過去に縛られ、贖罪から逃れているだけに過ぎないおまえの醜い姿に苛々させられる。





まことにわれに現はれしは

かげなき青き炎の幻影のみ

雪の上に消え去る哀傷の幽霊のみ



自分中心で、贅沢で、我儘。

けれど、私はおまえが弱い人間だと識っているから。

暗い牢獄で隔離された哀れなお前を見捨てはしない。


そうして私は狂ってしまったお前を抱き締める。

その瞳にはもう何も映してはいないけれど。


こうしているとお前の神経の割れる音が聞こえてきそうだ。



どうすることもできず、私は壊れたお前の震える身体を更に強く強く抱き締めた。

これは、発作のようなもので。

やがて、お前の心は帰ってくる。

そしていつも、お前は何も覚えていない。

耳元で未だ呟くお前の言葉。

たとえ私がお前を許しても、お前の罪も私の罪も消える事は決して無いのだ。





ああ かかる日のせつなる懺悔をも何かせむ

すべては青きほのほの幻影のみ










萩原朔太郎の詩集より引用あり



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