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If I see again
この戦いが始まってもう幾刻が過ぎただろうか。
一国の長である毛利元就は
近場で国を治め、丁度自国に訪ねてきていた長曾我部と手を組み
自軍に攻め込んできた軍隊と戦っている。
こんな大群が押し寄せるなど予測出来ておらず、毛利軍は今や壊滅寸前という所。
策士なる毛利がこのような不覚を取られたのは前代未聞のことであり、
毛利軍の負傷は酷いものとなった。

「くっ…この毛利元就、不覚をとったか…!」

軍の長である元就に今までの戦いの際に浮かべていた冷淡な表情は無く
ただただ自軍の生存に向け必死に戦っていた。
周りにいる兵の九割は敵軍であり、近くにいる味方軍と言えば長曾我部元親が目の端に映る
程度だった。

「どけ、どけ どけ、どけぇぇぇぇええ!!!!」

元親はなんとか元就を助けに向かおうと自分の周りの敵軍を切り伏せている。
が、個々の力量は大したものではないがなにぶん量が多すぎる。
切っても切っても沸いて出る兵たちに苦戦を強いられているようだった。

「日輪よ、我にご加護を…ッ!」

刀と弓矢を巧みに使い分け攻め込んでくる敵軍。
が、流石は一国の長であるだけはありそれの負けず劣らず戦う元就。
次々と円状の刀を振りかざし敵の兵を切り捨てる。
負けず劣っていないとしてもやはり苦戦ではあり、その眉間には深い皺が刻まれている。

長い時間を掛けついに周りの剣士たちを切り伏せた。
と、同時に自分の置かれた状況を認知する。

「何…と?」

周りを弓兵に囲まれていたのだ。
相手の武将も自分と良く似た戦略を駆使するらしく、
刀を振るう兵たちは捨て駒として向かわせたらしい。
弓兵は、剣士たちを必死に切り伏せている間中準備に徹していただけあり、完璧な配置だ。
180度全てを弓兵の構える楯に囲まれ逃げ出る事も出来ない。
元親に目をやるが向こうも苦戦を強いられ刀を振り回しているのが見えただけであり、
自分の窮地に気付いている様子は無かった。

「くっ……我の命も此処までか……」

どこに目をやっても映る楯は皆丈夫に出来たものであり、今までの戦いで脆くなってきている
自分の刀では太刀打ちできそうにも無い。

「放てーーーーーーーーッ!!」

敵軍の武将の声が何処からとも無く聞こえ、周りを囲む弓兵が一斉に弓矢を構え

一斉に空に、元就に、放った。


目を見開き空を見上げる。

一つ一つの矢の切先が空を背景に背負い自分に向かってくる。

時間の経ち方がとてつもなく遅くなったように

それはゆっくりとでも確実に自分に向かって

降ってくる。



「もとなりーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


遠くで元親が叫ぶのが聞こえた。どうやら今更気付いたらしい。

「まったく、鈍感なやつだ……」

薄ら笑いを浮かべると同時に、ゆっくりだった時間がもとの拍子を取り戻し、

時間と自重の勢いを借りて矢が全て自分の体を貫通し、突き刺さる。

「ぐっ……は……」

全ての矢が多少の時間を掛けて自分の身体に 収まる 。
自重を支えられなくなった脚はかくんと膝で折れ曲がり、身体は地に伏した。

「おらおらおらおらおらァァァァアッ!!!」

元親が怒りの篭る雄たけびを上げながら巨大な刀を向こうから振るってやってくる。
弓兵の楯は全て元就に向けられていため、外部から背後を攻撃された弓兵達は次々に切り殺される。





「ふ……煩わしいやつぞ……


      それでも……」







「もとなりぃぃぃぃッ!」




――――何時も何時も海を渡り自国に渡ってきたそなた。


    近くにいれば煩わしいものの、

    いなければいないで物足りぬ男であった。


    愛情の表現の仕方など知らぬ我に

    それでも慕ってくれていたそなた。


    そんなそなたを我は……………







好いておった、と続けようと動かす口はもう音を紡がずひゅうひゅうと空気を吐き出す。

痛覚も感覚すらも麻痺して、もう残すところ自我のみが残っていた。
身体はもう動かせない。

ついふた刻ほど前まで触れていた長曾我部の温もりを思い返し
また触れたいと切に願った。




出来るなら


叶うなら


また来世であの阿呆面をした鬼に


巡り会わせてはくれまいだろうか


それだけでいい


記憶など消えていてもかまわぬ


ただ、出会いたい 巡り会いたい―――――――……




眼を開けている事もままならなくなり瞼を閉ざす。
今更到着した長曾我部が自分の身体を抱きかかえ何度も名前を呼ぶのが聞こえる。

やはり煩わしい…けれど、愛しい声ぞ…

自分の名前を呼ばれる心地よさに包まれながら元就は
静かに息を

引取った。


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あきゅろす。
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