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君への



「お、おい、半兵衛、体冷たくなってんじゃねぇか」

こんな所で寝てるから…
まさか…、と焦る気持ちを押さえ込み、半兵衛を軽く揺すってみる。
警戒心の人一倍強い彼だ。これだけ騒げばいつもは『煩いなぁ…』と渋々目を開ける。
……のに。
半兵衛はぴくりとも動かない。

「………っ」

恐る恐る半兵衛の真っ白な手を、手にとり、
手首に自分の親指を押し当てる。





…………何もなかった。

生きている証である
血が流れる様も、柔らかさも、温もりさえも。
何もなくなっていた。

「あ…、ぁ、なぁ。う、嘘だよな。なぁ、半兵衛、目ぇさませよ、なぁ……ッ」

さっきより強く体を揺するけど、
やっぱり反応はかえってこなかった。
けれどそれを、

現実だと

半兵衛はとおいとおいとおくへいってしまったのだと

認めるのが
嫌で。嫌で。
無我夢中で、体を揺すり、声をかける。

「なぁ、半兵衛…。はんべぇ…、たのむから…目ぇあけてくれよ……」

心で拒絶しても頭は理解していって。
心が拒絶して受け入れない分、瞳から、
認めたくない思いが、現実が、溢れでる。




頬を伝うそれは、










とどまることを知らなくて
ついには彼の頬までをも濡らした。


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あきゅろす。
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