[携帯モード] [URL送信]
避けられた人


『これからお前の部屋行くぞ』

と元秋からメールが来たのは15分前。
未鷺が『わかった』と返信したのは15分前。
風紀委員メーリスで寮内での喧嘩の目撃情報が送られ、未鷺が返信したのが10分前。
現場に行き、喧嘩はすぐにおさめたものの、帰りに靖幸に遭遇して苛立ったのは5分前。

そして今、未鷺は元秋が待つはずの自分の部屋へ、妙な緊張感を覚えながら向かっている。
自分の気持ちに気づいてから元秋と二人きりになるのは初めてだ。

普段通りに接することが出来るか不安になる。
早く会いたいと思うのに、未鷺の足はいつもより遅く動いた。


312号室に面した廊下に着くと、そこから或人が出て来るのを見つけた。

或人も未鷺に気づいたようだが、いつもの嫌みな軽口もなく、無言で横を通り抜けて行った。

未鷺は胸が痛むのを無視して入れ代わるように312号室に入った。
予想通り、元秋はそこにいた。

「おかえり」

元秋が自然に口にした挨拶に、未鷺は恥ずかしくて堪らなくなる。

「……ただいま」
「どうした?顔赤ぇぞ」
「何でもない」

未鷺は自分の鼓動の音が耳に届きそうだと思った。
落ち着くために元秋をおいて荷物を置くふりをして個室へ入り、深呼吸する。

「熱あんのか?」

すぐ後ろから聞こえた優しい声に、未鷺はびくりと身体を揺らす。

「驚き過ぎだろ」

苦笑しながら頭を撫でてくる元秋をちらりと見て、「突然声をかけるからだ」とぼやく。

「はいはい悪かったな」

少しも悪びれずに言い、元秋はベッドに座った。
ぽんぽんと自分の隣を叩いて未鷺に座るよう示す。

ここに座ったら俺の心臓は壊れはしないだろうか、と心配になりながら、未鷺は腰を下ろした。

「さっき三嶋と話したんだけどよ」

元秋の口から出たのが或人のことで、未鷺は少しむっとする代わりに冷静になった。

「三嶋がどうした」
「お前が何であいつのこと嫌ってんのか気になった」
「嫌ってない」

未鷺は即答してぷいと元秋から顔を逸らす。

「俺を避けているのは三嶋の方だ」

元秋は怪訝そうに眉を寄せた。

「あいつ、お前の親衛隊なんだろ。お前のためにいろいろやってるぞ」
「三嶋は俺の前でわざとふざけた態度を取って、目も合わせない。多分、俺と仲直りする気はない」
「は?仲直り?」

未鷺の言葉が予想外だったのか、元秋は大きくない目を見開く。

「三嶋は俺の友達だった。だが俺は三嶋を失望させた。もう二年間も避けられてる」

もう友達には戻れないだろう、と呟くように言った未鷺を、元秋は自分の胸に引き寄せた。

「変なこと聞いて悪かったな」

元秋の体温に、未鷺はほっと息を吐く。

「あいつと仲直りしたいんだろ」

未鷺は元秋の腕の中で小さく頷いた。

「しようぜ」

元秋の穏やかな声に任せれば、上手くいくんじゃないか。
そう思って未鷺はもう一度頷いた。

(*前へ)(次へ#)
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!