友情の形 菖蒲未鷺親衛隊は他の親衛隊と違って細かな隊則や集会はない。 未鷺の身に何かあったときだけ連絡を取り合い情報を集めたり解決策を練ったりそれを実行したりする。 だから月に一度の定例集会は、お菓子を食べながら未鷺について語る、という非常に緩やかなものだった。 副隊長として出席する或人も自分好みの輸入菓子を片手に出席した。 「それで菖蒲さんが――」 饒舌に未鷺について語るのは未鷺の親衛隊員でありながら風紀委員でもある飛田だ。 或人がそれまで談笑していた彼らの横を通ると、飛田が「副隊長」と声をかけてきた。 その顔が真面目そのもので或人は嫌な予感がする。 「僕風紀委員としても考えたんですけど、副隊長が生徒会に入るのが菖蒲さんにとって一番だと思うんです!」 来たか、と或人は思い、歪んだ笑みを浮かべた。 いつか言われる覚悟はしていた。 他の隊員達も飛田に賛成する意見を続ける。 「菖蒲さんは次期風紀委員長だし、生徒会と関わる回数が増えるもんなぁ」 「生徒会に副隊長がいれば俺達も安心できるよな」 或人は集中する視線を払いのけるように手を振った。 「やめろよー。俺は生徒会なんてもうこりごり。菖蒲さんも俺がいたら生徒会室に来たくなくなるんじゃない?」 「そんなことは……」 「あるよ。俺は菖蒲さんに近付く権利ないから」 或人がこの話を本気で嫌がっているのを感じた隊員達はそれぞれ話を変え始めた。 定例集会はいつも通りの盛り上がりで解散する頃には或人の生徒会入りの話はなかったことのようにされていた。 或人もその隊員達の優しさに甘えて隊室を出て、壁に寄りかかっていた人物の中身のない笑顔に凍りつく。 「やぁ、アル。久しぶりに君と話したくなって待ってたよ」 王子と称されるのがぴったりの微笑を浮かべ、慎一は或人に歩み寄った。 何かを察した隊員達は足早に二人から離れて行った。 「副会長さん、何のご用?菖蒲さん親衛隊に入りたくなった?」 「茶化したって無駄だよ。僕は君にごまかされてあげないから」 隊員達がいなくなったのがわかると慎一の顔から笑みが消える。 この腹黒め、と心の中で罵倒しつつ、或人は空になった隊室に慎一を招いた。 「……立ち話もなんだから」 「お邪魔するよ」 「本当に邪魔だよ」 或人が返すと慎一は口の端を上げた。 そのひねくれた性格が懐かしくて或人は胸が痛むのを感じた。 (*前へ)(次へ#) [戻る] |