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素敵書巻
とどまることをしらず

 夜の帳が落ちた室内。ベッドの軋みも止んで、粗い呼吸だけが満ちている。閉ざされたカーテンの隙間から月明かりが細く射し込み、辛うじてお互いの姿が見て取れた。
 阿部は体の力を抜いて、組み敷いていた体に覆い被さった。勿論、全体重がかからないように腕に力を込めるのは忘れない。汗と白濁とでしとどに濡れた体は、少しの隙間も許さないとでもいうようにぺたりと貼り付いて剥がれなくなった。このまま離れなければいい、そう思ったのは決してひとりではなかった。
 息の乱れの残るまま、阿部の重みを感じて三橋は閉じていた瞼を震わせた。先程まで感じていた狂いそうな程の熱量ではなく、人肌の温もり。高みに昇り詰めて過敏になった体にもそれは優しかった。
 距離が近くなって、更に濃くなった阿部の匂い。鼻腔を満たすそれは既に馴染んだもので、反射的に体の力が抜ける。頭が阿部でいっぱいになる。
 視界にその姿を捉えようと、涙に濡れた睫がゆっくりと開いた。蕩けた琥珀色の瞳が覗く。焦点の合わないまま、それでもすぐに阿部を見つけてふわりと微笑んだ。
 阿部もつられて目を細めて、汗で貼り付いた前髪を掻き上げてやる。三橋は気持ち良さそうに再び瞼を閉じて、阿部に擦り寄った。

 「先生、大丈夫?」
 「…うん、へいき」

 応える声は普段よりも掠れて艶めいていて、少々無茶を強いたという自覚があるだけに阿部は暫し罪悪感に駆られたが、それも一時に過ぎなかった。それ以上に充足感が胸を占める。この声を聴けるのは自分だけ。皆に吹聴して回りたいような誇らしさ。実際は勿体なくて誰にも教えられないのだけれど。
 自分だけの表情、声、仕草――知れば知るほど愛しさが募る。深みに嵌まる。いてもたってもいられなくて、閉じられた瞼、紅潮した頬、鼻の頭、そして誘うように薄く開かれた唇に触れるだけの口づけの雨を降らせた。

 「あー…すげェ幸せ」

 久々の先生だ、そう満足げに呟いて、阿部は自分の頬を三橋のそれに擦り合わせた。

 「ひさ、びさ?」
 「試験期間中はおさわり厳禁だって言ったのはどこの誰だよ?」
 「う、だ、だって、試験は大事、だよ?」
 「…わかってっけどさ、毎回毎回先生足りなくて死にそうになんだよ」

 拗ねたように眉を寄せてふい、と目を反らした仕草は年相応のもので、日に日に大人びていく阿部がたまに見せるそんな子供らしい姿が、三橋にとっては何より愛おしかった。
 まだまだ成長期の阿部、これから心身ともに更に成長していくのだろう。今でさえ度々翻弄されているというのに、これ以上成長されてしまったら三橋は到底太刀打ち出来なくなってしまう。
 そして何より、成長した阿部が自分から離れてしまうことが、三橋にとって一番怖いことだった。後数年も待たずに阿部は西浦高校を卒業する。阿部のことだからきっと進学するだろう。大学に入学し、高校時代より遥かに広がる世界の中で、阿部が三橋よりも好きな人を見つけないとは限らない。むしろその確率の方が高いに決まっている。
 入学した当時から比べると、背も伸びたし顔つきも子供っぽさが抜けて、精悍さを増した。声を荒げることも少なくなり、落ち着きも出てきた。そんな成長を喜ばしく思う反面、ずっと子供でいてくれればいいのに、と思う自分を止められなかった。
 阿部と付き合うと決意した時点で、いつか訪れるであろう別れを覚悟していた筈なのに。今ではどうだ、依存しているのも恋焦がれているのも三橋の方ではないか。

 「・・・また変なこと考えてただろ」
 「う、むっ」

 突然鼻を摘まれて、三橋は我に返った。目の前には眉根を寄せて呆れ果てた阿部の顔。

 「な、なん…」
 「すぐ思考飛ぶの、先生の癖だよな。そして顔に出やすい。自分で気付いてねーの?」

 何で分かったの、と問おうとした言葉はすぐさま返されてしまった。昔からよく指摘されていた癖をずばりと言い当てられてしまい、居心地の悪さに視線を彷徨わせる。

 「分かんねーなら何度でも言うよ。俺は先生が好きなんだ。俺が勝手に好きになって、俺が好きでこうしてんだ。先生が後ろめたく感じる必要なんて、これっぽっちもないっての」

 鼻から離れた手が宥めるように頬を撫でる。そう言って笑ってみせた阿部の顔が僅かに歪むのを、三橋は見逃さなかった。
 傷付けたと思った。未だに拭えない躊躇いが、少なからず阿部を傷付けているということを知っていながら、またやってしまった。
 シーツに投げ出されていた両腕を阿部の背中に回して、強く抱き締める。

 「ちが、う!俺だって、阿部君が好きなんだ!それは、本当だから…っ」

 最初こそ阿部の押しに負けて付き合い始めたが、今となっては想いの大きさは等しいと、そう思っている。
 阿部の新たな面を見るたび愛しさが増して、より一層好きになって。底無し沼に足を踏み入れたかのようにすぶずぶと深みに嵌まり込んでいく。息もつけなくなる。自分がそう思っているなんて、きっと阿部は気付いていないのだろう。

 「阿部君、好き…」

 言葉に出来ない想いも全部込めて、その耳に囁く。

 「…っ!」
 「えっ、んんっ」

 途端、中で萎えていた筈の阿部が大きくなって、三橋は唇を噛み締めた。

 「それは反則だろ…」

 巻きついた三橋の腕をやんわり外して、阿部が身を起こした。お互いの腹部が白く糸を引いて、けれどその糸もすぐに切れてしまった。
 離れてしまった体温が名残惜しくて、手を伸ばす。その手はすぐさま阿部に絡め取られた。

 「わりぃ、勃っちまった」

 取り敢えず抜くから、ともう片方の手を三橋の腰に添えて、阿部はゆっくりと腰を引いた。抜かれる拍子に硬さを取り戻した阿部がずるりと内壁を擦り上げて、三橋は思わず声を上げてしまった。

 「あ、あ…っ」

 治まりかけていた熱がぶり返して、吐息が熱を帯びる。阿部の方はというと、三橋の嬌声に煽られてすっかり張り詰めてしまっていた。
 先程まではまだ何とかなった。しかし、今の状態では収めるのは難しい。

 「ごめん先生…もっかい、いい?」

 お伺いを立てる声はみっともなく掠れていて恥ずかしくなったが、今更引くにも引けない。答えを促すように顔を覗きこむと、三橋は顔を赤らめながらもこくりと頷いた。

 「いい、よ…俺も、欲しい」

 絞り出された小さな声は、阿部の理性を崩すには十分過ぎるものだった。
 三橋の細い体を強引に引き起こして、阿部の足を跨ぐように膝立ちにさせる。脇の下からすべらかな背中に手を這わせ、そのままゆるゆると背筋をなぞって奥まった窄まりに辿り着いた。三橋の肩がびくりと跳ねる。
 軽くつついただけで、そこは強請るように口を開いた。先程注ぎ込んだ残滓が流れ落ちて、阿部の指を濡らす。潤滑油を使わなくてももう十分過ぎる程に濡れていて、阿部の侵入を待ち望んでいるかのように思えた。
 興奮に呼吸が荒くなる。吐き出された熱い吐息を胸に受け、三橋は身震いした。次に襲うだろう衝撃に備えて、阿部の肩にしがみつく。その力の強さに阿部は少しだけ顔を顰めたが、構わずに指を挿し入れた。

 「あっ、ん!」

 三橋の背が仰け反る。内壁の柔らかさを確かめながらどんどん奥まで進め、その付け根までくわえ込ませた。見上げる三橋の表情に苦痛の色がないことを確認して、指を蠢かす。中は好い具合にぬかるんでほぐれており、阿部の指を喜んで締め付けた。三橋の感じる部分を重点的に責めて指を曲げると、その肢体をびくびくと震わせて甘い声を響かせた。

 「あ、あ!そこっ、ひ…っ」

 三橋はかぶりを振って与えられる快感を堪えるのに必死のようだったが、中は正直で、もっともっとと欲しがって指を誘い込んでは離さない。抜き差しを繰り返しながら指を増やしてばらばらに内壁を刺激してやると、唇を噛み締めて啜り泣くような声を漏らした。
 阿部の指の動きに合わせて細い腰が揺れる。それに合わせてすっかり勃ち上がった三橋の先端が揺れては阿部の腹に擦りつけられて、先走りで滑る線を描いていった。まるでそれが自慰のようにも見えて、阿部は唾を飲んだ。

 「自分で腰揺らしてんの、わかる?俺の腹もうぐちゃぐちゃなんだけど」

 耳元に注ぎ込まれた囁きに促されて視線を下に向けると、赤く充血して勃ち上がった自身と濡れててらついた阿部の下腹部、更にその下のそそり立つ阿部までもが視界に入り、余りの恥ずかしさに三橋は思わず目を反らした。

 「だ、だって、あべくん、が…!」

 その間も送り込まれる快感と羞恥心とでパンクしそうになった三橋の瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。恥ずかしい筈なのに、視界に捉えてしまった阿部の自身に更に興奮してしまった自分がいた。
 内部を圧倒的な質量で満たされて突き上げられる快楽を知ってしまった体には、指だけでは物足りない。内壁を引っ掻く指がもたらす刺激は更に渇きを増すだけで、おかしくなってしまいそうだった。
 全体重を支えている足がぶるぶると震えているのが分かる。絶頂が近い。しかし、今の状態で指だけで追い上げられるのは辛いだけだと、三橋は身を以って学習していた。

 「も、いいからっ、おねが、い、きて…っ!」

 阿部の頭を掻き寄せると、その喉が上下するのまでが伝わってきた。勢いよく指が引き抜かれて、三橋はその動きにすら反応してしまう。双丘を濡れた指で鷲掴まれて、入口に先端が宛がわれる。その溶けるような熱さに、逃れるように腰が揺れた。

 「クソ、散々煽りやがって…もう止まんねェぞ?」

 ぺろりと鎖骨を舐め上げられて身を震わせながらも、三橋はこくりと頷いた。それを確認するや否や、阿部はその腰をがっちりと掴んで引き下げた。三橋の体重を利用して一気に最奥まで貫く。

 「ひっ、あああ!」

 性急な挿入に耐えかねて、三橋は白濁を撒き散らして果てた。びくびくと内壁が痙攣して阿部を絞り込んだが、何とか奥歯を噛み締めて堪える。そのまま黙っていてはこちらも持っていかれると、三橋が落ち着くのを待たずして抽挿を送り込んだ。

 「まって、まっ、ふあ、あう…っ」

 腰を掴み浮かせては、また思い切り引き下げる。その度に肉のぶつかる音と粘ついた音が鼓膜を震わせる。先程よりも深い交わりに、達して過敏になっていた三橋は途切れることのない愉悦の波にあられもなく喘いだ。

 「やっ、ん、ん、はっ」

 懸命にかぶりを振って快感を紛らわそうとするが、硬く尖った胸の粒を転がすように舌で愛撫されてはどうしようもない。萎える暇も与えられず、自身はすぐさま勃ち上がって蜜を零し、また阿部の腹筋を汚していく。胸、中心、そして内部を責め立てられて、頭が真っ白になる。阿部を求めるだけの生き物になる。
 次第に三橋の腰が揺れ始めたのを感じて、阿部は更に抽挿を早めた。元より三橋の痴態に煽られて余裕など露ほどもない。抜き差しするたびに背筋をびりびりと駆け抜ける快楽に塗り潰されて、気遣いや手加減などはすっかり頭から抜け落ちていた。
 認識出来るのは今繋がっている体が三橋のものであることと、どうすれば更に快感を与えられるか、得られるかということだけ。雄の本能のままにただ三橋の弱い所をぐりぐりと穿っては、ひたすらに腰を打ち付けた。

 「あ、あべく…っ、あべくんっ!」

 ぼろぼろと涙を零しながら、舌足らずに三橋は阿部の名を呼んだ。ふたりの間に挟まれた三橋の中心も真っ赤に充血して泣き出している。もう限界が近いようだ。阿部のものもとうに限界まで膨れ上がっていて、後は解放を待つばかり。
 阿部はだらしなく開かれた三橋の唇を自分のそれで塞いで、舌を絡め取り唾液を送り込んだ。くぐもった喘ぎが喉を震わせて、舌を通して伝わってくる。お互いに息を乱しているというのに口づけを深めて、貪り合った。
 繋がって抱き合って口づけて、零れる吐息も声すらも惜しい。全部自分のものにしてしまいたい。
 口づけはそのままに、阿部は抜けるギリギリまで腰を引いて、とどめとばかりに一際強く最奥を貫いた。

 「んんんっ!」
 「…っ、ん!」

 再び三橋が弾け、ふたりの胸を白濁で濡らす。高みに昇り詰めた三橋の嬌声をも飲み込んで、阿部もその中に劣情を放った。その衝撃で唇が離れ、互いに酸素を求めて浅く呼吸を繰り返した。
 くたりと力の抜けた三橋が体を預けてくる。べたべたに汚れた肌が愛しい。それをしっかりと抱きとめて視線を絡めれば、三橋は汗やら涙やらでぐちゃぐちゃな顔のまま、ふわりと顔を綻ばせた。つい先程まで淫らに鳴いていたくせに、その笑顔は毒気を抜いたようにまっさらで。誘われるように唇を寄せ、触れるだけのキスを交わす。
 その合間に紡がれた、好き、という言葉は阿部を骨抜きにするには十分過ぎるものだった。



END.
――゚+.――゚+.――


またまた、尊敬サイト『Saccharin』の紅月燐サマ宅にて1万打フリーだったので即・強・奪!!!
紅月サマのサイトへは「廉鎖」より飛べます☆


ど、動悸が止まらないんですけど…ハァハァ
余裕がなくなる阿部さんは涎がでます、空神が。


紅月サマーッ!!!
一万打おめでとう御座います*゚(´∀`)ノ
そして無断済みません…orz


あきゅろす。
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