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「幸之進」

訪問着を着たオフクロがニコニコとオレを呼ぶから、嫌な予感はしてたんだ。


な、なんだよ。と渋った返事を返せば、隣りのカノコがキョトンとオレを見た。

周りには見渡す限り菓子・脱いだまんまのコート・菓子……。

もはや己の部屋と化したオレの部屋で、コタツに陣取ってはオレの分まで菓子を口に運ぶ。
ハァっと目線だけ移してオフクロを顔を向ける。


「……お母さんがね、足挫いたみたいなの」
「ばーちゃんが!?」

うって変わって深刻そうな顔を向けたオフクロに不安が過ぎる。


「……対した事ないらしいんだけど、手が足りないから……」
「…………」
「貴方一緒に来て」
「……えっ」


やっぱり。

ばーちゃんは日舞を教えてて弟子なんかもいる。
勿論、オレに寄ってくんのはガキばっかだけど「ハリー先生」なんて言われればガラじゃねぇけど嬉しかったりもする。


「コウが?」

話の見えないらしいカノコが菓子に伸びた手を止めずにツッコんできた。

「うっ」

言いよどんだ、オレの変わりにニヤっと笑ったオフクロが口を開く。

「コウね、踊れるのよ。日本舞踊」
「えっ!?」

自慢じゃないがばーちゃんとオフクロの厳しい稽古のおかげで一通りこなせる実力はある。

やるなら徹底的にやるのがオレだし、おかげで身に着いた集中力は今の音楽活動に役立ってる事もある。

……だけどさ。


「……貴方も来ない?」
「なっ」

何、言い出すんだよっ

って慌てるオレをシカトしてどんどん話は進んでく。


「……コウ踊るの?」
「そう。クルクル回るのよ〜。かっこいいんだから!」

……クルクルはまわんねぇだろ……。

まるで子供に諭す様に誘惑する。
それに簡単に引っ掛かるのがコイツだ。


「…………」
「カノコ?」

だけど、いつも口を閉じないカノコが黙ってなんか考えてた。

なっ、なんか……引いてんじゃねぇか?
だ、だよな。オレはロックの申し子だし!
ばーちゃんは心配だけどやっぱコイツの前でなんか踊れるワケ……って断ろうとしたら


「す、」

すっ?

「すごーい!!」
「……はっ?」
「コウってなんでも出来るんだね!かっこいい〜」
「そ……うか?」
「うん、すごくかっこいい……」

キラキラした目がオレを向く。
そんな目で見られたらオレ……


「……一緒に行ってもいい?」
「おう!じゃ、用意すっから待ってろ!」


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あきゅろす。
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