ミリバ 短編集
魔法薬学教授
魔法薬学の授業は地下室で行われる。窓がないせいか他のどの教室よりも寒い。夏は涼しいが冬場は特に寒いのが難点だな。
スリザリン出身の私が言うのだから間違いない。
次の授業の準備をする為、使う材料を人数分集めてゆく。
魔法薬学で使う一年生用の教科書を開いて確認していると、扉が開きスリザリン生がやってきた。まぁ、寮から近いからってのが納得だが。
程なくしてスリザリン生、グリフィンドール生全員が揃ったところで、バタンッと勢いよく扉が開いた。
セブ、静かに入ってきなよー
目で訴えるもシカトされる…。
黒いマントを蝙蝠の羽根の様に広げ、無駄のない足運びで教卓の横に就き出席を取り始めた。
「あぁ、さよう」
囁く様に話す猫撫で声。
「ハリー・ポッター。我等が新しい──スターだね」
明らかに馬鹿にしている言葉。それにスリザリン側からはクスクスと冷笑いが聞こえる。
実際にこうして物語のワンシーンを観ているわけで…でも、やはり彼等は血の通った人間で、
あ、なんかイラッとした…
ジロッとセブルスを睨むも彼はこっちを見ようとはしない。
リリーの瞳以外、ジェームズ似のハリー…。それほどまでに憎かったのか。親世代の背景は紙の上でしかしらない。
憎くて、それでも愛した人の瞳に思いをよせて。
ああ、なんて この人は…
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ」
先程まで冷笑をしていたドラコ・マルフォイを始め生徒達は真剣な眼差しで教授を見た。
大半の生徒が呟く様に話す先生の言葉を一言も聞き漏らさないようにしているらしい。
うん、素晴らしいね。
前世の学生時代の騒がしい奴らに見習わせたい。
「このクラスでは杖を振り回す様なバカげた事はやらん。
そこで、これでも魔法かと思う諸君がいるかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立上る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。
我輩が教えるのは、名声を瓶詰にし栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である──ただし、我輩がこれ迄に教えてきたウスノロ達より諸君がまだマシであればの話だが」
この長い演説を聞くのは二度目になるが…いい声してるよね、セブ。
「ポッター!」
ハリーやロン、女子生徒のハーマイオニーは今の華麗な魔法に目を奪われていた。
しかし、セブルスの大声に驚く。
「アスフォルデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
どうやらセブルスはニヤリと笑いながら質問を言った。ハリー・ポッターを虐め通すらしい。
ハリーは全く、わからないようでしどろもどろだった。
隣でハーマイオニーが手を挙げているのは無視するらしい。
「わかりません」
「チッチッチッ……有名だけではどうにもならんらしい」
せせら笑うセブルス。
チッチッチッ…って似合わねぇ!
「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが頑張って手を挙げているものの、セブルスは一向に無視を決め込んだため、彼女はマロンの方に視線を向けた。
ごめんね。申し訳なさそうに口パクで言えば彼女は、渋々手を降ろした。
あ、不服そう…後で声を掛けてあげよう。
「わかりません」
「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター」
セブルスはポッターを虐めるのに一生をかけるだろうな、とは思ったがそれはあながち間違いではなさそうだ。
「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いは何だね?」
「わかりません……」
「ではマロン教授に答えていただこう」
私は小さく溜息を吐いてから、言った。
「アスフォルデルとニガヨモギをあわせると眠り薬になり、余りに強力なため『生ける屍の水薬』と言われています。
ベゾアールとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトともいうが、“トリカブト”のことです…これ六年生の範囲だからねー」
最後の余計なことをと、セブルスに睨まれた。ハリー虐めた仕返しだ蝙蝠。
「…諸君!今のを何故書かん!」
セブルスが、そう言うと一斉に羽ペンを動かす音が聞こえてきた。
***
「それでは、今日はおできを治す簡単な薬を作ってもらう」
黒板に分かりやすく手順と説明が示されて二人一組になるようにと指示を出す。
書かれた通りに作れば失敗のしようのない、本当に簡単な魔法薬。
調合中はセブルスと私は生徒たちの作業を観察しながら歩く。簡単な調合といえど危険なのだから。
「Mr.ロングボトム」
「は、はい!」
危うく手順を間違えそうになった彼を止める。
「針は鍋を火から降ろしてからですよ」
「あ…はい…」
黒板を見てやっと気づいたネビルは、持っていた針を置いて手順通りに火から鍋を降ろした。
とりあえずフラグ回避。
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