ミリバ 短編集
死神の男
ヘレノア旧市街―廃墟と化した戦場
崩れ掛けの不安定なビルの上に佇む一人の青年、ヴァルフ。
イスト軍中将である。
特に何をする訳でもない
ただただ荒廃した旧市街を見つめては
時折吹く緩やかな風に、その美しく長い紅髪を靡(ナビ)かせる。
ふと、その背後に影が現れ
全身を硬く重圧な鎧で覆った軍師クロヒョウ。
背に羽織ったマントを靡かせながら、一人立つヴァルフの方へその気配を消すことなく堂々と近寄る。
「何の用?」
近づく彼に振り返ることなくヴァルフは問うた。
問われたクロヒョウは動きを止め、こちらを向く気配のない背…ヴァルフに一つ吐息のような笑みを零して応える。
「相変わらずな態度だな、同じ国の戦士相手に敵意剥き出しだ。少しは己の感情を鎮める知恵を持て。足元を掬われるぞ?」
「悪いが、俺はキサマとは1秒たりとも会話をしたくない。用がないなら帰れ」
クロヒョウの言葉に聞く耳など持たず、一向に敵意を逸らさないヴァルフ。
そんな彼の様子を見、愉快そうに笑うクロヒョウ。
それが癪(シャク)に障ったのか、ヴァルフはようやくクロヒョウの方を振り向き、鋭い刃物のような突き刺す視線を向けた。
だが、クロヒョウがそれに怯む様子はない。
「籠の中の鳥、か―わしにはあのオッドアイの小娘ではなく、お前が籠に囚われているように思えるがな。」
オッドアイ…―恐らく敵対するモザークの兵士、マロンのことを指しているのだろう。
クロヒョウが言うのは、マロンを罠にはめた時にヴァルフが言った言葉だ。
クロヒョウの言葉を聞いたヴァルフは、顔を不快そうに歪ませる。
「…何が言いたい…?」
「お前は随分とあの小娘に執着しているようだが…―お前が本当に執着しているのは別のものではないか?」
クロヒョウの問うような言葉に、ハッと眼を開いた。
「お前にとってあの小娘は、己の本来の目的の代役であるだけなのではないか?」
まるで自分の心の中を洗いざらい覗かれているようなクロヒョウの物言いに、ヴァルフは一層その顔に不快感を露にさせる。それと同時に、悉く己の心を読むクロヒョウに動揺してか、動悸が不規則に高鳴る。
急に募る焦燥が遂に表情に露見したのか、クロヒョウはヴァルフの異変に気付き、やはりと確信するような笑みを浮かべる。
「何がお前を戦場へ駆り立てる?そこに何の意味がある?私のように戦いを好んでいるわけでもなく、あの元師のように地位の獲得を目論むわけでもなく…―。」
「…相変わらずうるさい人だ、キサマは。」
クロヒョウの言葉を遮って、ヴァルフの凛とした声が響いた。
「キサマはいつもそうやって、俺の全てを見透かし、暴いて、否定する。」
ヴァルフはまるで、クロヒョウを自分の記憶の中にある別の誰かと重ねているように言う。
思い出の中だけでなく、今尚続く因縁でもあるかのように。
「俺はあいつらとは違う。」
クロヒョウを睨みながら言った。
ヴァルフの言う「あいつら」が同じイストの軍兵を指しているのか、また別の自分の記憶の中の存在を指しているのかは定かではない。
それでも己は特別である、ということを全面にクロヒョウに主張する。
「最後に生き残るのは、俺一人だ。」
力強く言うヴァルフに、クロヒョウは納得したように頷く。
「成る程、生への執着…―それがお前を戦場に運ぶのか。」
確認するように言うクロヒョウに、ヴァルフは何も応えない。
ただジッと、クロヒョウを睨み続ける。それを見たクロヒョウは、まるで良い物を見つけたように満足気に笑った。
「だがそれは、このような世界ではただの無限的な地獄にしかならん。それでもお前が、ソレを貫き続けるか…―見させてもらうとしよう。」
そう言い残すと、クロヒョウはヴァルフに背を向けヘレノア旧市街を後にした。
しかしヴァルフはクロヒョウが去った後も、彼のいた場所を睨み続けた。
拳を握り締め、瞼を閉じ、
空に輝くあの赤い月を、フッと見上げる。
その瞳には揺ぎ無い信念のような強さが輝いていた。
「言われなくても、見せ付けてやるよ…―クロヒョウ。」
決意を秘めた言葉を残し、ヴァルフもヘレノア旧市街を後にする。
そしてまた、その身を戦場へと投じる。
この世界で、戦って勝利し、即ち生きる事であるならば―如何なる相手であろうと勝ち続けるなければ
その戦いの果てが例え地獄の底へ通じていたとしても、構わない。
そしていつの日か、全てに思い知らせてやる。
死神という《男》を―…
アトガキ
なにこれw
わけわからん(^p^)
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