ミリバ 短編集
それぞれのクリスマス休暇B
休みが近いせいか殆どの生徒達は、休みをどう過ごすかそんな話題ばかりだ。
大広間の飾り付けをフリットウィクと数人の監督生とでしてゆく。あらかた終わった頃、大広間の廊下が騒がしくなった。
遠く離れた場所からでも耳に届く程の怒鳴り声が。セブか。
やはりと、そちらへ視線を向ければ、立ち去るセブルスの後ろ姿があった。彼の後をついて行くドラコ達。そして大広間に入ってくるハリー達とクリスマスツリーを引きずるハグリットに話し掛けた。
「お疲れさま、ハグリット」
「おう!マロン。ツリーを持ってきたぞ!これの飾り付けも宜しく頼む」
「トゥリエル先生!」
「先生、ロンが減点されたんです。全く!不公平だわっ!!」
「あんまりだ!」
「待って、待って!何があったのか順番に、」
トロール事件以来ハリー達三人に懐かれたマロンは、嗜める。ハリー達は、我慢の限界だったのだろうセブルスへの愚痴を矢継ぎに吐き続けている。とりあえず、マロンは三人を落ち着かせて話を聞いた。
ああ、セブルスが悪いと。あの人らしいやり方にマロンは苦笑いした。
不公平だわ、と呟くハーマイオニー。
自分の寮の生徒は怒らないで、他の寮を減点する理不尽さに。
それにしても三人は、何処に行くところだったのだろうか。明日から休みなのに。…ああ、図書室かと納得する。
勉強道具や分厚い本を持っていたのが何よりの証拠だ。
「みんな調べ物でもしてるの?」
「はい、ニコラス・フラメルについて調べているんです」
「………」
マロンは平然と。しかしハグリットは気まずそうに、二人は視線を合わせた。
「なぜ、フラメルなんか調べてどうするの?」
「ニコラス・フラメルとは誰なのかを知りたいだけなんです」
「お前さん達は!全く、はぁ……」
ハグリットが溜息を吐いた。
この三人が未だにニコラス・フラメルについて調べているとは。ここ最近は静かだったから、つい諦めたとばかり思っていたが、図書館で調べているみたいだ。
言ってあげようかと決めた先、彼等は既に背を向けて大広間から出て行くところ。
隣でハグリットがニコラス・フラメルのことを漏らしてしまったことに謝っているが、いや私に謝られてもと思う。
明日からは冬休み。クリスマス休暇だ。セブルスに許可貰ったし、薬学の教室で幸運の液体製作を予定していた。
*****
避けられている。誰に?クィリナスに。
彼は『あの人』から聞いたと思う。クィディッチの呪いの一件以来、クィリナスはマロンに対し、よそよそしくなった。普段の挨拶はするが、避けられていると誰が見てもわかるくらいに。
「(まぁ、わざとだけどね)」
朝食をとりに自室から出たところで、ホグワーツの周りが白銀の世界になっている気づく。
マロン以外、皆は自宅へ帰るらしく。マラドーナと叢雲は家族と過ごす予定を嬉々として語っていた。
*
次の日の朝、自室のベットの脇にはプレゼントの山が、できていた。
色鮮やかにラッピングされた箱がいくつか。カラフルと宝物のようにキラキラと暖炉の炎に照らされて輝いていた。一つ一つ手に取り、丁寧に開けてゆく。
マクベスからはグレイの羽ペンとインクセット。一緒に「液体製作頑張れ」と書かれたメッセージカードが添えられ苦笑を漏らす。
マリリからはもこもこの手袋とマフラー。柔らかくとても暖かそう。休暇はこれをつけてホグズミートに買い物に行こうかな。
ふと、銀のリボンと緑色の包装紙に包まれた箱に目が行った。差出人不明のそれは、杖で調べても呪いの類は無く。誰からだろうと思いつつ警戒しながら何てことはない。
深い緑色の生地のワンピース。お洒落に蝶の銀の刺繍が袖を一回り。
ぱらりと落ちたカードを拾う。
―…Eu te amor L・V―
ただ一言、添えられていた。
「L・V…?」
はたして、そのイニシャルを持つ知り合いなど、いただろうか。暫く悩み、結局わからず思考を破棄した。
*
残りのプレゼントは放置し、マロンは先に朝食を摂りに大広間へ向かった。
「「メリークリスマス!トゥリエル先生!」」
「メリクリ。フレッド、ジョージ」
マロンが大広間に入ってすぐに双子がいた。叢雲と中の良い彼等とは叢雲を通して面識がある方だ。
教員席には一際大きなツリーが陣取り、キラキラと輝き星の飾りの先端からは冷たくない雪が吹き出している。あれは私のオリジナルだ。
長いテーブルは取っ払れ皆で一緒の席に座っているとは、新鮮味を感じる。
ご馳走を沢山食べて、クラッカーを引いて楽しんでいるハリー達を眺めては微笑んでいたらしい。
「セブ、ワイン」
「うむ…」
いつも不機嫌なセブルスも、今日はどこか笑っている気がするのは気のせいではないと思う。至近距離にいる私だけが知る所存だ。
***
それから休暇が終わるまで、幸運の液体の調合のため地下の薬学教室に引きこもる。五階にある部屋に戻るのが面倒だからセブルスの部屋に泊めてといえば鉄拳が下された。ケチ。
そして元気がないハリー。原因は、おそらく…みぞの鏡か。毎晩鏡の元へ出向いているんだろう。映ったその先に思いを寄せて。
夜、マロンはハリーがいるだろう、みぞの鏡がある部屋を訪れた。まだハリーは来ていないようだ。
マロンは鏡を覗いた。いけないと思いつつも好奇心には勝てず。
「(まさか、)」
この世界で生を受ける前に過ごした、世界が映っていた。
隣で微笑む彼がいた…。
「…っ!」
守れなかった、彼の命。
味方だった者の手によって流れゆく紅い波、最期の光景がフラッシュバックして…。
自然と足は、鏡から遠ざかった。
「トゥリエル先生?」
「ハリー、」
振り返ればハリーが透明マントを片手に持って立っていた。
表情は悪戯がバレて気まずいような顔をしていた。
「ハリーには、何が映るの?」
この鏡に。
「家族が映るんだ。ロンには見えなかったみたいだけど、きっと今も家族がいるからだ。僕には、僕のパパとママが見えるんだ。本当だよ!」
必死に訴えるハリーにマロンは微笑んだ。
「そっか、私には親友が映ったよ…大分昔に死んでしまったけれど」
「やっぱりこれは死んだ家族や友達を見せてくれる鏡なんだ!」
泣きそうになった。
「僕も最初は戸惑ったけど、ここに来れば家族に会える。これは間違いないこと、現実なんだ」
「違うよ、ハリー」
マロンの言葉に聞く耳持たずハリーは食い入るように鏡を覗いたまま。
「、ハリー」
ビクッと肩が跳ね上がったハリーは「僕、気がつきませんでした」と冷や汗をかいた。ハリーの横にアルバスが来て、みぞの鏡について説明を始める。
心の一番奥底にある、一番強い『のぞみ』…
マロンはもう一度鏡の中を見た。 相変わらず微笑む彼が映っている。
「(後悔しろ、ということか…)」
「…さて、そのすばらしいマントを着てベッドに戻ってはいかがかな」
アルバスの説得が終わり、ハリーが立ち上がり寮へと戻っていった。
遠くからみぞ鏡のを見つめ、瞼を閉じた。
「マロン、ステキなクリスマスプレゼントをありがとう。厚手のウールの靴下は 、わしが一番欲しかった物じゃよ」
アルバスはそう言って、優しくマロンの肩を抱きしめた。皺くちゃの手が頭を撫でて、押し止めていた涙が一筋こぼれ落ちた。
彼は二度と戻ってはこない。
彼との過去を、思い出を一番に縋っているなんて。わかってはいたが、こうも突き付けられたら辛いな。
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