ミリバ 短編集
クィデッチ戦開幕
日曜日の朝。
大広間には朝食を取る生徒達が大勢いた。誰もがクィディッチの試合に興奮を抑えきれず、ざわめきに包まれていた。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」
「ソーセージ、美味しいよ」
「お腹空いてないんだよ」
そんな会話がグリフィンドールから聞こえ、そちらに視線を向ける。ハリーは、げんなりして、朝食を取ろうとしていない。緊張しているんだろう。初試合なのだ無理もない。
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に敵に狙われるぞ」
「わざわざご親切に」
シェーマスが自分の皿のソーセージにケチャップを山盛りにしぼり出すのを眺めながらハリーは答えた。
「ハリー」
*
呼びかけられたハリーは振り返ると、同じ寮の…たしか叢雲先輩とよく一緒にいる女の子が立っていた。名前は確か…
「これ、よかったらどうぞ。厨房で作ってきたの。野菜ジュース、口に合えばいいな」
手渡された甘い香りがするオレンジ色の飲み物。貰い物なのに頂かないなんて失礼だから一口含めば、広がる柔らかな甘酸っぱさ。やみつきになるほど美味しい。
「美味しい…!」
「よかった」
女の子はニコリと微笑んで、大広間から出て行った。
「い、今のマリリ先輩だよね!?」
シェーマスが、ちょっと身を乗り出し大広間の扉に視線を向けた。
「え?」
「ハリー知らないのかい!?マリリ先輩は俺達の一つ上の先輩で、グリフィンドールの孤高の姫と呼ばれているんだよ。みんなマリリ先輩とお近づきになりたいんだけど双子の兄のマクベス先輩が怖いらしくて、噂ではマリリ先輩に告白した人が次の日には医務室生活を送ったらしいぜ。何があったかわからないけど」
「…」
ハリーは空っぽのゴブレットを眺めた。
*
クィディッチ競技場は満員だった。教師も生徒も白熱している。グリフィンドール側の応援席には、ハリーを驚かせようとして作っただろう、「ポッターを大統領に」という旗が光っていた。マロンは教員席の最後列に座った。
時間になって選手が出てきたことにより歓声が沸いた。耳が痛くなりそうだったが、マロンは飛んで行くハリーを見つめた。
笛が鳴り試合が始まった。解説は双子と仲良しのリー・ジョーダンだ。
『さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました──何て素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります』
「ジョーダン!」
「失礼しました、先生」
ミネルバに監視されながらやっているようで、思わず笑いが込み上げる。
『ジョンソン選手、突っ走っております。アリシア・スピネットに綺麗なパス。オリバー・ウッドはよい選手を見つけたものです。去年はまだ補欠でした──ジョンソンにクアッフルが返る、そして──あ、ダメです。スリザリンがクアッフルを奪いました。キャプテンのマーカス・フリントが取って走る──鷲のように舞い上がっております──ゴールを決めるか──いや、グリフィンドールのキーパー、ウッドが素晴らしい動きで、ストップしました。クアッフルは再びグリフィンドールへ──あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルです。フリントの周りで素晴らしい急降下です。ゴールに向かって飛びます』
「いたっ!」
そのケイティにブラッジャーがぶつかり、クアッフルはスリザリンに取られてしまった。痛そう。思わず学生時代を思い出しマロンは顔をしかめた。
『──グリフィンドール、先取点!』
アンジェリーナがゴールして、グリフィンドールの大歓声とスリザリンからのヤジと溜息が広がった。どうやら、ハッフルパフもレイブンクローもグリフィンドールの応援をしてくれているようだ。
スニッチはまだ現れず、試合は繰り広げられている。ハリーはトラブルに巻き込まれないように高いところから競技場を見渡していた。
その時、
『──あれはスニッチか?』
リーが言った。ハリーはスピードを上げて、ぐんぐん近づいていったがスリザリンのキャプテン・マーカスがハリーの邪魔をしてハリーは吹き飛ばされた。
ハリーは辛うじて箒にしがみついている。
怒りで震えるグリフィンドール側の応援席。
ルールを変えるべきだ。と野次を飛ばす者もいる。
リー・ジョーダンも中立を保つのが難しくなってきたようだ。同じ寮の仲間、無理もない。
『えー、誰が見てもはっきりと、胸くその悪くなるようなインチキの後……』
「ジョーダン!」
『えーと、おおっぴらで不快なファールの後……』
「ジョーダン、いいかげんにしないと──」
『はい、はい、了解。フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました。誰にでも有り得るようなミスですね、きっと。そこでグリフィンドールのペナルティ・シュートです。スピネットが投げました。決まりました。さあ、ゲーム続行。クアッフルはグリフィンドールが持ったままです』
*
「一体ハリーは何をしているんだ」
誰かが言った。ハリーの箒が急に勢いよく揺れだしたのだ。観客も一斉にハリーを指差し始めた。箒が、ぐるぐると回っている。ハリーは片手だけで箒の柄にぶら下がっている。
「(始まった…!)」
マロンは反対呪文を唱えた。
今頃、私と同じように六人が唱え始めているだろう。
クィレル一人に対し七人の反対呪文があれば勝敗はわかりきっている。
反対呪文の効果もあり、揺れは収まりつつあったが、まだ少し揺れている。
「(しぶとい!)」
*
「フリントが、ぶつかった時どうかしちゃったのか?」
「そんなこたぁない。強力な闇の魔術以外、箒に悪さはできん。チビどもなんぞ、ニンバス2000にはそんな手出しはできん」
その言葉を聞くと、ハーマイオニーがハグリットの双眼鏡をひったくり、ハリーではなく観客席の方を見回し出した。
「何してるんだよ」
「思ったとおりだわ。スネイプよ……見てごらんなさい」
ハーマイオニーから双眼鏡を受け取ったロンはスネイプを見た。ハリーから目を離さずにブツブツ言っている。
「何かしてる──箒に呪いをかけてる。僕たち、どうすりゃいいんだ?」
「私に任せて」
ハーマイオニーは教員席側へ消えていた。ハリーはもう落っこちそうだ。双子は万一のために下で飛び始めた。スリザリンはその間に、五回も点を入れた。
しかし向かい側のスリザリンが騒ぎ出した。スネイプに何かあったらしい。ハーマイオニーは成功したようだ。
ハリーはしっかりと箒に乗っていた。すると突然急降下し、四つん這いで着地して何かを吐き出した。スニッチだ。
『グリフィンドール、百七十対六十で勝ちました!』
***
試合を終えたハリーとロン、ハーマイオニーはハグリットの小屋で紅茶を貰っていた。
「スネイプだったんだよ。ハーマイオニーも僕も見たんだ。君の箒にブツブツ呪いをかけてた。ずっと君から目を離さずにね」
ロンの言葉にハグリットは否定した。
「バカな。なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ?」
「僕、スネイプについて思うことがあるんだ。あいつ、片足を怪我してた。きっと三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何か知らないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが取ろうとしたんじゃないかと思うんだ」
「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」
「フラッフィー?」
「そう、あいつの名前だ──去年パブで会ったギリシャ人のやつから買ったんだ──俺はダンブルドアに貸した。守るため……」
「何を?」
「もう、これ以上聞かんでくれ。重大秘密なんだ、これは」
「だけど、盗もうとしたんだよ」
「バカな。スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことするわけなかろう」
「ならどうしてハリーを殺そうとしたの?ハグリット。私、呪いをかけてるかどうか、一目でわかるわ。たくさん本を読んだんだから!じーっと目を逸らさずに見続けるの。スネイプは瞬き一つしなかったわ。この目で見たんだから!」
「おまえさんは間違っとる!俺が断言する。俺はハリーの箒が何であんな動きをしたんかはわからん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。三人ともよく聞け。おまえさんたちは関係ないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、犬が守ってる物も忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」
「あっ!」
ハリーは聞き逃さなかった。
「ニコラス・フラメルっていう人が関係してるんだね?」
ハグリットは、しまったといわんばかりに頭を抱えた。
ハーマイオニーが確認のために聞き返しても、ハグリッドは頑として何も言わなかった。それを肯定と受け取った彼等は、何とかしてその人物を思い出そうと考え込み始める。
ハグリッドは、これ以上ハリー達を小屋に置いていると、もっと口を滑らせてしまうと思い、急にハリー達に寮へ帰るよう急かし出した。
ハリー達はこれ以上ハグリッドから聞きだすのは難しいと考え、大人しく寮へ戻ることにした。
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