ミリバ 短編集
真夜中の探検
(叢雲 Side)
夜の十時半ごろ。
叢雲は一人、談話室へ下りて行った。
先程マロンから手紙があって、今夜が真夜中の決闘イベントだと知る。多分、談話室にはハーマイオニーが居る筈だ。
案の定、ソファの影に彼女は居た。
「Ms.グレンジャー」
小さい声で話し掛けると、栗毛のフワフワした髪が微かに揺れる。
ー「そ、叢雲先輩…」
「こんな時間にどうしたの?」
知っていて聞く。叢雲は一人掛けのソファに座った。
彼女の元気がない理由は知っているが、あえて彼女の口から聞いた方がいいと判断した。
ハリー達が談話室に下りて来るのは後一時間くらいだろう。
しばらく悩んでいた彼女は口を開いた。
「あの、実は…」
ハーマイオニーはハリーとロンの事を話した。夕食の時にあった出来事の一連をすべて。
「なるほど…」
「だから私、二人を止めようと此処で見張ってたの…」
なんつーか、ハーマイオニーは真面目だな、真面目過ぎるな…と苦笑する。
「俺も手伝うよ」
「え…」
「いちおー先輩だし?」
と、茶化したらハーマイオニーは初めて笑顔をみせた。
***
しばらくすると布が擦れる音が男子寮側から聞こえた。ハーマイオニーが立ち上がってランプを、そっちの方へ向けるとハリーとロンがいた。
「ハリー、まさかあなたがこんなことをするとは思わなかったわ」
「また君か!ベッドに戻れよ」
ロンは怒鳴った。
俺は三人に背中を向けたまま立ち上がる。
「…真夜中の探検かぁ、楽しそうじゃん。俺も連れてけよ」
ニタリと笑った俺の存在に、発言にロンもハリーも驚いている。すっげー驚いてる。マロンに写メ撮って見せてやりたいぜ。
彼等からしてみれば俺は、ただのロンの兄貴たちの友達。顔見知り程度だからな。それ程親しい関係ではないハズだからだ。
「先輩!?」
「大丈夫、減点させやしないさ」
未だにハリーとロンはポカンとしたまま。俺は、そんな彼等に向き合う。
「行こうぜ」
そう言って肖像画の穴を抜け出すと、戸惑いながらも後ろから来る三つの気配。
まぁ余り絡んでないし当然といえば当然だが。
夜のホグワーツは少し不気味だ。加えて教師陣も交代で校内を見回りしているから(一応、今日のこの時間帯はマロンが担当だ)隠れながら叢雲を先頭にハリー達はその後を付いて行く。
トロフィー室に着いた一行は、まだマルフォイ達は来ていないようだ。
「遅いな、怖じ気づいて逃げ出したんだよ」
ロンが呟く。
その時、隣の部屋で物音がした。
「ニャー」
猫の声が聞こえた方へ振り返る。ミセス・ノリスだ。
「いい子だ。どこかこの辺に隠れているに違いない」
「フィルチの猫よ!」
ハーマイオニーが小声で焦りながら言った。
「逃げろ!」
ハリーが声を張り上げ、トロフィー室を出て廊下を疾走した。 フィルチが追い掛けてくるのを確かめる余裕もなく次から次へと廊下を駆け抜る。 自分達が何処へ向かってるかも分からなかった。
「はぁはぁ…フィルチ、を、まいた、と思う」
冷たい壁に寄りかかり、額の汗を拭いながら切れ切れにハリーは言った。
「だから、そう、言ったじゃない」
ハーマイオニーが胸を押さえながら言った。
「グリフィンドール塔に戻らなくちゃ。できるだけ早く」
「マルフォイに嵌められたのよ。ハリー、貴方も分かってるんでしょ?マル フォイが告げ口したのよ。だから、フィルチはトロフィー室に来るって知って たのよ」
ロンの焦るような声と、ハーマイオニーの言葉にハリーもそう思ったが口にはしなかった。
「行こう」
ほんの十歩と進まないうちに、ドアの取っ手がガチャガチャ鳴り、ドアから何かが飛び出した。
「誰か来る」
叢雲が言うのが遅かったのか 、ポルターガイストのピーブスに見つかりハリー達は焦りだす。
「生徒がここに「シレンシオ!!」…、……!っ!!」
四人を見るとフィルチに知らせるかのように大声で叫ぶピーブスをすかさず叢雲は黙らせた。
「悪いなぁ、ちょっとばかし黙っててくれよ」
ニタリと悪い笑みを浮かべる叢雲にピーブスは、なす術もなく地団駄を踏む。といっても死んでいるので、意味はないが。ざまぁ。
しかし、ピーブスの声は届いていたようで遠くの方でバタバタとする足音が聞こえ再び走らなければならなくなった。あとで覚えてろよ、ピーブス。
「フィルチだ!追いかけてきたんだ」
ハリー達は廊下の突き当たりの部屋に逃げ込もうとしたが、鍵が掛かっていたせいか扉が開かない。
「もうだめだ!」
絶望としたロンの呻きに苦笑してしまう。
「ちょっとそこどいて!」
ハーマイオニーがそう言うと、杖をだし錠を杖で軽くたたき呟いた。機転が利くとはこういうことか。さすが主席。
「アラホモラ!」
ハーマイオニーが杖で鍵を開けると、慌てて部屋の中に逃げ込み、すぐにドアを閉めたが妙な音が聞こえた。何かが呼吸している音といってもいい。
ハリー達がその音に気付いて後ろを振り向くと、そこにいたのは三頭犬ケルベロスが鎮座していた。
「おぉ〜」
三つの口からは黄色い牙が剥き出し、その間から、ダラリとヌメヌメしたよだれが垂れ下がり目の前の獲物(俺達)に敵意が宿った六つの瞳を向けてた。
「「「わぁぁぁぁーーーー!!」」」
俺を除く3人が叫んだ。それはもう叫んだ。一心不乱にハリーは取っ手を握り扉を開け、 入ったときとは反対に倒れ込むように出て行く。見たいもんが見られ満足した俺は、鍵をかけゆっくりと寮へ戻ることにした。まる。
(side out)
急いで寮に戻るため、走って走ってやっと八階の太った婦人の肖像画まで辿り着く。
「はぁはぁ、ビックスナウト」
息も絶え絶えで言うと肖像画はパッと開いた。 談話室に入り三人は自分の部屋に繋がっている階段を上りながら、粗方落ち着いたロンが話した。
「あんな怪獣を学校に隠しておくなんて、教師連中は何を考えているんだ」
「貴方達、何処に目をつけているの?」
ハーマイオニーが言った。
「あの犬がなんの上に立っていたか見なかったの?」
「床じゃないの?」
「足なんか見てなかったさ。頭を三つ見るだけで精一杯だったよ!見たろ! 頭が三つ!!」
ハーマイオニーが二人を睨み付けた。
「床じゃないわ。仕掛け扉の上に立っていたのよ。何かを守ってるに違いないわ!」
確信めいたようにハーマイオニーが言った。
「貴方達、さぞかしご満足でしょうね。もしかしたら皆殺されていたかもし れないのに。もっと悪いことになったら、退学ね。 では、皆さんおさしつかえなければ、休ませていただくわ」
ロンはポカンと口を開けながらハーマイオニーを見送った。
「殺されるよりも、退学の方が悪いのかよ」
ロンは吐くように言った。
その後、二人も部屋に戻って休むことにした。いたはずの叢雲がいないことに気付いたのは数秒後。なんともなかったかのように戻ってきたことに、さらに驚くのは数分後。
***
ハリーとロンが大広間に入ってきたらフクロウのようにほど目を見開いたマルフォイ少年にマロンは、いいものが見れたとニヤつく。
ハリーはロンに、ハグリッドが金庫から包みを持っていったのを見たと。グリンゴッツからホグワーツにその大事なものが移されたと思うと。そしてあの犬 に守らせていると思うと。大事なものとは一体何だろうと話し合っているだろう。
ハーマイオニーはハリーやロンとは、すっかり口をきかなかった。
今度はマルフォイにどうやって仕返しするかという話になった。いろいろと考えたもののいい案は浮かばなかったようだ。
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