ミリバ 短編集
飛行訓練
(ロン Side)
午後3時になり、ハリーと外へ出た。
グレンジャーが、また呪文のように本から得た知識を唱えていて正直うんざりする。
フーチ先生が、やってきた。
キリっとしていて、清清しい雰囲気の格好いい先生だなと僕は思った。
先生は鋭い口調で言った。
「何をぼやぼやしてるんですか。みんな箒の側に立って。さぁ、早く!」
箒は皆ぼろぼろで、明らかに年代モノだ。
ネビルの隣にある箒なんて、全ての小枝がありえない方向に折れ曲がっている。
大丈夫かよ…
先生の指示に従って「上がれ」と声を掛けた。箒は中々上がらなくて、思いっきり強い口調でいったら手を掠めて顔面に激突。
「うぅ…;」
最悪だ。
まぁ、そのあとしっかりと握った。
周りを見渡せば成功したのは、ハリーとマルフォイだけのようだった。
ネビルは怯えているせいが一ミリも上がる気配はない。
グレンジャーの箒は足元で、ころりと転がるだけだ。でも数分間箒と睨み合った末に成功した。
ネビルも時間は掛かったが、何とか箒は手に納まったようだ。少しヨロヨロとした上がり方だったが、本当に大丈夫かと不安になる。
先生は箒の持ち方や箒の跨り方を指導した後、空を飛ぶ練習をすると言いった。
「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。笛を吹いたらですよ。
1,2の…」
しかし、
ネビルは先生の合図よりも先に地面を蹴りだしてしまったのだ。しかも、強く。
先生が「戻ってきなさい!」と声を掛けているが、あれじゃ無理だ。完全にコントロール出来ていない。
ぐんぐんと高度が上がっていき、ネビルは上空8m近くまで行ってしまった。バランスを崩し、身体が激しく揺れている。
堕ちる!!
そう思った時、何か一閃のようなものがネビルを掻っ攫った。
「「「えッ!?」」」
それは大きな鷹で、鉤爪にネビルがぶら下っている。
騒然とする中、鷹はゆっくりと降下してゆきネビルを、そっと地面に下ろした。
とうのネビルは放心状態で、ガクガクと震えている。
「大丈夫ですか!?Mr.ロングボトム!
ああ、助かりましたよ。Mr.レヴユン…レイブンクローに10点差し上げましょう」
先生が鷹に向かって言った。
え…???
鷹が一瞬で青年に戻る。ネクタイの色はレイブンクローで僕たちよりも年上だ。
兄貴たちの友達の叢雲先輩の友達、チルド・レヴユン。純血でありながら純血主義を嫌う一族として知られている。
話したことはあまりないけど…
学生で、既にアニメーガスを習得しているなんて、かっこいい!
「いえ、では失礼します」
レヴユン先輩はそう言って城の方へ行ってしまった。始めから最後まで無表情だけど、嫌じゃない感じだ。
「彼を医務室に連れて行きます。その間、もし誰か1人でも動いて御覧なさい。
クディッチの『ク』の字を言う前にホグワーツから出て行ってもらいます。」
ピシャリと、そう言うとフーチ先生は未だに泣きじゃくるネビルを引き連れて医務室へと向った。
「あいつの顔を見たか? あの大間抜けの」と、あの嫌みな奴の嘲る言葉に意識が戻された。
他のスリザリン寮生たちはマルフォイに便乗するように囃し立てた。
「やめてよ、マルフォイ」
パーバティ・パチルが咎める。
「へー、ロングボトムの肩を持つの?パーバティったら、まさかあなたが、チビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ」
気の強そうなスリザリンの女子、パンジー・パーキンソンが冷やかした。
「ごらんよ!」
マルフォイが『思い出し玉』を拾い上げた。
「ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」
「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」
「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。
そうだな―――木の上なんてどうだい?」
「こっちに渡せったら!」
箒に跨がったマルフォイが、ふわりと舞い上がり、ハリーに挑発するように言った。
「ここまで取りに来いよ、ポッター」
グレンジャーは群がっている生徒達の元に走り、箒を掴んでいるハリーを止めた。
「だめ!フーチ先生がおっしゃったでしょう?動いちゃいけないって。私達みんなが迷惑するのよ!」
グレンジャーが叫んだが、ハリーはソレを無視し、箒に跨って地面を蹴ると、空中にいるマルフォイと向き合った。
マルフォイはハリーがここまで来れるとは思わなかったのか、呆然としている。
「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」
「へぇ、そうかい?」
マルフォイはせせら笑おうとしたが、顔が強ばっていた。
「クラッブもゴイルもここまでは助けにこないぞ。ピンチだな、マルフォイ」
「取れるものなら取るがいい!」
マルフォイはそう叫ぶとガラス玉を空中高く城の方へ放り投げた。
ハリーは前屈みになると、箒の柄を上に向けた。
次の瞬間、ハリーは一直線にマルフォイの横を通り過ぎる。上昇し見る見るスピードを上げて玉と競走していた。
下で見ている誰かの悲鳴がした。
僕は夢中でハリーの飛ぶ姿を見ていた。
すごい。すごいよ、ハリー。
ハリーが手を伸ばすと、窓スレスレの所で玉を掴んだ。
間一髪でハリーは箒を下げ、水平に立て直し、草の上に軟着陸した。
"思い出し玉"をしっかりと手のひらに握りしめたまま。
グリフィンドールの生徒が歓声を上げ、ハリーの元に走った。
スリザリンの生徒は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
僕も、ハリーの元に駆け寄ろうとした、その時。
「ハリー・ポッター!!!」
マクゴナガル先生が血相を変えて走ってきた。これは、ヤバい。ハリーの顔は見る見る青ざめてゆく。こっちも気が気じゃない。
「まさか――こんなことはホグワーツで一度も……」
マクゴナガル先生はショックで言葉も出ないようだ。
「……よくもまあ、そんな大それたことを……首の骨を折ったかもしれないのに――」
「先生、ハリーが悪いんじゃないんです……」
「おだまりなさい。ミス・パチル」
どうにかしないと!
「でも、マルフォイが……」
「くどいですよ。Mr.ウィーズリー。ポッター、さあ、一緒にいらっしゃい」
マクゴナガル先生は大股に城に向かって歩きだし、ハリーは静かにトボトボとついて行くしかなかった。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルの勝ち誇った顔に、僕は悔しさのあまり手を強く握り締めた。グレンジャーも、顔をしかめて三人を睨みつけていた。
ハリー…、いなくならないよな?
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