ヒメゴコロ
じゃあまた、ね
二階の由香里の部屋に入る。
そこにはベッドと勉強机とパソコン。それから小さなテーブルと小説が並ぶ本棚しかない。
変わらない殺風景な部屋。
「変わらないね。」
そう言いながらいつものようにベッドに腰を下ろした。
「うん。」
そう答えながら由香里は向かいの椅子に座る。
「髪、切っちゃったんだね。」
"切られた"とは言えず、遠回しに言うと由香里は気まずそうな表情をする。
「髪ね…自分で切ったの。」
「……え?何それ!?家出してお父さんに切られちゃったって司が言って…。」
「ううん、それは"嘘"。家出したのは本当だけど髪は自分で切ったの。」
「な、なんで?」
「気分、かな。」
えへへ、と歯を見せて笑う由香里。
私は自分の表情が強張るのを感じた。
嘘、ついた?
司に 嘘を?
あんなに泣いて、心配している司に"嘘"を?
私は膝の上で手をギュッと握りしめた。
「……そうだ、ねぇ、由香里。勉強とかどうしてるの?学校はどうするの?勉強とか、ついていけなくなっちゃうよ?」
だから学校に来て。そう言おうと口を開きかけたが、由香里の言葉に掻き消された。
「大丈夫だよ。勉強は兄貴の彼女さんに見てもらうから。」
「…え?」
そう言ってニコリと笑う由香里。
彼女の言いたいことがわかってしまった。
彼女さんに勉強を教えてもらう、それはもう
学校に行かなくていい
学校に来ない
ってこと。
「…ちょっと待ってよ。ねぇ由香里、部活はどうするの?大会近いんだよ?委員会は?委員長にも迷惑かけちゃってるんだよ?ねぇ!由香里!」
「…ゴメン。迷惑、かけちゃうね…。」
「…そんな。」
体から一気に力がぬける。
もう何を言っても無駄だ、と彼女の笑顔がそれを物語っていた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!