ヒメゴコロ
影響
次の日、今度は司が私の元へ走って来た。
「蘭、昨日電話した?てか電話に出た?由香里はなんて言ってた?」
司が必死の形相で尋ねてくるが、言葉に詰まる。
由香里に言われたのだ。
――司には言わないで、と。
言えるわけがない。
正直司には話すべきだと思うが、由香里の思いを無下にする事は出来ない。
「あー…電話に出たよ。色々話した。由香里にね、学校来てって言っといた。司達も後輩の子も心配してるからって。」
「そしたらなんて?」
「また学校来るって。あ、それとね、伝言。『この前はごめん。心の整理がついてなかった。学校は行けるようになったら行くから。心配かけてごめん。』て由香里が。」
「…そっか。」
司は下を向いて黙ってしまった。
「大丈夫だよ!きっと来るから、ね!」
なんとか安心させようと私は笑顔で司の肩をポンと叩いた。
ごめんね、司。
やっぱり私には言えない。
私は司に真実を告げられない罪悪感で胸が押し潰されてしまいそうだった。
それから司は学校帰りに後輩と由香里の家に行くようになったし、私も何度か電話をかけるようになった。
「学校来てね。待ってるから」
いつの間にかそれが決まり文句になっていた。
それから、由香里のいない生活は他にも影響を及ぼし始めた。
一つ目は部活だ。次の大会が迫ってきている。
「古泉さんに由香里を早くなんとかしろって言われちゃった。」
そう司が力無く言う。
剣道の団体戦は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五人が出場しなければならない。もし一人足りない場合は試合が出来ないということでその時点で一敗になる。
今女子の剣道部員はちょうど五人。由香里が次鋒で司は大将だ。
由香里が出場しなければ、不利な戦いになる。
司は困ったようなような表情で早くなんとかしなきゃ、と笑った。
二つ目は委員会だ。
「おい、少年。」
委員長が私を呼ぶ。何故か"少年"などと妙なあだ名で呼ばれている。
「何?」
「お前、点呼しろよ。」
「へ?なんで私?」
「土屋いないだろ。」
「…ぁ〜はいはい。」
私は溜め息をついてから点呼をし、号令をかける。
「起立、これから図書委員会を始めます。礼。」
これらはいつも由香里の仕事だ。まぁ仕方ないよ、いないから私がやるしかない。私は書記で、由香里の親友だから。
けれどその"親友"に苛立ちを覚える自分がいる。
自分でやりたいと言ってなった図書委員会副委員長じゃないか。
由香里がいくら辛かったとはいえ、仕事を投げ出したことに変わりはない。
結局由香里がしなければならない仕事は委員長と私でカバーしなければならない。
委員長には迷惑をかけることになってしまった。私ができる仕事と言えば点呼と号令くらい。優秀な委員長のことだから、他の仕事はみんな一人でやってくれるだろう。
本当に申し訳ない。
そう思ったらまた溜め息が出た。
きっと由香里にはわからないだろう。私達がこんなにもウジウジ悩んで、心を痛めながらもカバーしていることを。
ねぇ、早く学校に来て…。
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