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09.路地裏の雑貨屋

「明日、必要なものを揃えたらこの町を出よう」

「うん」

シスの提案に、天井を見詰めていた僕は頷く。

久しぶりのベッドの柔らかさは感動する程じゃなかったけど、今日はぐっすり眠れそうだ。

静かな明日を願って、僕は目を閉じた。




09.路地裏の雑貨屋





「旅の道具が何でも揃う店がある」

まるでお店の謳い文句のようだけど、少し大きな町にはこういう店も少なくない。

旅の仲間が増えるという想定外の出来事に、蓄えていた干し肉等の食材や調味料も底を尽きそうだった。

次の町に着くまで何日かかるか分からない分、また少し蓄えなければ。

それに出来ればシスの包帯とかも欲しいし、ね。

「なんだか怪しい店だな」

「えー……あまり人が来ないから穴場なんだよ」

表通りから細い路地に入り、一つ目の角を曲がったところにある目立たない雑貨屋。

誰も来なそうな割に何故か店は潰れなくて、何か怪しい商売もしているんじゃないかと噂したものだった。

実際は品物の品質も良く使い勝手の良いものを多く仕入れている為、知る人ぞ知る名店として常連の需要が凄いだけだが。

色々な店を物色した結果、結局僕もその一人だった。

「人がいる……」

小さい声で咄嗟に呟いた。

以前この店に通っていた時は、人に遭遇することは滅多に無かった。

三年の間に知られるようになったのか、それとも式典の為か。

「ロノ、何を買う?俺も最低限の金はある」

「お金はあるから気にしなくていいよ。まずは食材を見よう」

シスが声を潜めて尋ねてきた。

そういえばシスはどの位の余裕があるんだろう。

一応僕は前の町で魔物退治をして貯めた分があるから大丈夫だけど、お金は纏めて管理した方が都合がいい。

(後で確認しよう)

そんなことを考えつつ、シスと食材の一角であれこれと物色することに。

あまり贅沢は出来ないけど、一応食べ盛りだからしっかりと食べれるものが良い。

「安いなぁ。ねぇシス。辛いものは平気?」

「ある程度は……それは……どうだろうか」

「あ、これは無理そう?じゃあそれは?」

シスは僕の持っていた毒々しい濃紅の粉を見て、眉を寄せた。
確かにこれは辛すぎるかな?少し抑え目のものを選ぼう。

「肉はこれで良いか?」

「その肉は煮る用ね。それも買うけど焼く分も買おう。干し野菜も見なくちゃ……」

シスが手にとったものと一緒に、すぐ隣にある干し肉を物色する。

(あんまり色が悪いのはなぁ……)

「ロノ……凄い慣れてるな」

僕が集中して選んでいるのを見てシスが感心している間に、僕は選んだ食材をシスに持ってもらうことにする。

(あと燧石と鋼も古くなってたから……)

シスの元を離れ、鉱石の棚に向かう。

料理をする時、焚き火をする時、魔法を使えば火は着くが、やはり自然の力を守っていきたい。

魔法は出来る限り、使いたくないから。


(次にアルカティエに来た時もこの店には寄るんだろうな)

機関で学んでいた時と何も変わらない、彼等との思い出の詰まった雑貨屋に。

「ロノ、買い忘れでもあるのか」

「いや……ないよ。次はこの地方の地図を買いに行こう。お気に入りの書物屋があるんだ」

思い出の雑貨屋を背に、僕は次の一歩を踏み出した。

後ろから付いてくる人の気配を感じながら――。


(下手くそなの)

小さな笑みが、溢れてしまった。





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