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07.魔法文学の町アルカティエ
「予想より大きい町だな」

日が暮れ始めた頃、僕達は町に着いた。

町には外壁があり、単なる町にしては立派過ぎる様子に、少し違和感を感じるところだ。

「この町はアルカティエって言って、魔法文学の研究が盛んな町なんだ。人が多く来るから外観はとても立派なんだよ」

「魔法文学?」

「そう、簡単に言えば考古学の一種かな。魔術師と学者ばっかりが集う、古の町」

少し立ち止まって話していた僕達の横を、アルカティエに向かう荷車が追い越していく。

後ろから見える荷台は頑丈に覆われていて、何が入っているのか分からない。
アルカティエに向かう荷車は全て、頑丈に作られているから。

(例えその荷が人間でも、ね)

懐かしく、もの悲しい過去。

もしかしたら、僕がいた頃と何も変わっていないのかもしれない。

変わっていたとしても、本当はこの町を避けるつもりでいたのだけれど。

「ロノ?日が沈む。行こう」

小さく疼き始めた哀愁に、何も知らないシスの容赦の無い声が掛かる。

「……そうだね、行こっか」

昔のことを振り返っている暇はない。そう、諭されている気がする。

「宿、空いてるかな」

町の入り口が、あの頃より小さく見えた。




07.魔法文学の町アルカティエ





「二人部屋空いてますか?」

「すみません二人部屋は……あ、いえ、お客さんラッキーですね!キャンセルが出たばかりですよ。一部屋でよろしいですか?」

アルカティエの町に着いて、二つ目の宿。
最初の宿は既に満員で、そう大通りから離れていない宿を選んだのだ。

それにしても、おかしい。

アルカティエは元々魔法文学によってそれなりに栄えた町ではあったが、こんなに人が溢れていた記憶は無い。

「一部屋で大丈夫です。あの、なんだか町全体が賑わってるみたいなんですけど、何か催し物があるんですか」

「えっ、お客さんは式典を見にいらしたんではないんですか?」

「式典……」

それとなく尋ねたつもりだったけれど、どうやらかなり間の抜けた質問だったらしい。

受付曰く、明日は数年に一度の聖魔術師誕生の式典が催されるらしい。

(この町はあの時のままだ。僕は結局、逃げても避けられないんだな……)

聖魔術師とは、魔法の才能を認められた者の中から更に選抜された魔術師のこと。

聖魔術師が使えるのは高等魔法どころじゃない。その称号を与えられるということは、最上位魔法を習得したということだろう。

彼等の魔力は、計り知れない。

「助かったな。これだけ人がいれば、紛れられる」

部屋に着いて、荷物を下ろしたシスが呟いた安堵の言葉。

そう思えば確かにそうだ。これだけ人が集まれば容易に見付かることは無いだろう。

「うん。……でも、この町は僕のことを知ってる人がいるかもしれない。あまり一緒に行動するのは良くないかも」

「……?知り合いなら別に構わないんじゃないのか」

「駄目だよ、僕はこの町から逃げ出したんだ。見付かったら連れ戻される」

少し口調がキツくなってしまったかもしれない。

それだけ僕も、緊張していた。

予想外の答えだったのか、シスは連れ戻されるという言葉に反応して警戒した表情になる。

「理由を聞いてもいいか?」

……シスは単刀直入過ぎる。

正直者、なのかな。

「構わないよ。見付かったら迷惑掛けちゃうし、これから一緒に旅をするなら知ってた方がいいのかもしれない」

元からアルカティエに着いたら機会を見て言うつもりだったから。

「……何から逃げてるんだ?」

「この町の魔術師養成機関から。僕は三年前まで、この町で生活してたんだ」

それは命を救ってくれた機関への、最低の恩返し。


(サッシュ達は、どうしてる……かな)

決して切れることはないと信じてやまなかった僕らの絆。

昔話の始まり――。





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あきゅろす。
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