06.旅路
「ロノは前にいつ、ここを通ったんだ?」
それはシスと僕の、初めての会話らしい会話。
06.旅路
「いつだったかなぁ……そんな前じゃなかったと思うけど、その時は旅をしていた訳じゃないから。あ、でも記憶力はいいから道は間違えないよ」
僕はシスの疑問に、街道沿いに生える見慣れない花に気を取られながら応えた。
(この地方の花は分からないや……)
前にこの道を通ったのは、そんなに遠くない記憶だけど、懐かしく感じる。
よく考えれば、あの時の僕は酷く衰弱していたのに、道を覚えていることには驚きだ。
小さい頃から物覚えは良かったから、そんなに不思議ではないけれど。
「今向かってる町にも寄ったのか?」
「んー……寄ったって言うより、僕はその町で生活をしていたんだよ」
「生活していた?」
シスの声に驚きが混じる。
きっと僕が、そんな素振りを見せなかったからだろう。
「少しの間だけどね」
そう言って、僕はシスの何か言いたげな姿に、気を留めない振りをして歩き続けた。
きっとシスはこれ以上、詮索しない。
なぜなら僕だけじゃなく、お互い話したくない過去があるから。
「日が落ちる前には着きたいね」
「……ああ、急ごう」
頷いて、僕を追い越したシスの後ろ姿に、少し孤独を感じた。
(町に着いたら教えてあげるね)
自由を望む君に、危険が及ぶ前に。
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