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04.悠久の地
「これで良いか」

僕の横に立つ、シスが言った。

あれから僕達は雨の中、ただただ立ち尽くしていた。

あの時、この村から黒騎士を追い払うことに成功はしたけれど、亡くなった村人達が再び息を吹き返すことはもう無いのだ。

「うん、時期じゃないから仕方無いよ。今僕達ができるのは、穏やかな眠りを祈るだけだから」

そう言ってシスから受け取った、辛うじて若さを保った草花を、僕は弔いの言葉と共に空高く放つのだった。




04.悠久の地





雨も治まり、焦げた村の痕だけがこの場所に残る。
村の中央に佇む村長の家から、息絶えた老夫婦を見つけた。女性を庇うように倒れた男性の方が、きっとこの村の村長だろう。

僕とシスは協力して、彼等を村の端の畑に運んだ。水を含んだ畑の土は、重たくぬかるんでいたけれど、掘り起こすのには丁度良かった。

ポツポツとでき始めた土の山。

この全てが、村人の墓なのだ。

「……シルフィス=クロウ」

黒騎士の言葉を思い出す。

それが、シスの名前かもしれない。
シスの存在が、村人達が殺された唯一の原因になってしまったのかもしれない。

だけど、僕の隣で包帯の巻かれた腕を気にも止めず、泥まみれになりながら必死に土を掘り起こすシスのことを、僕は責める気になれそうになかった。




「シスはこれからどこに行くの」

散った草花を見下ろして、僕はシスに問う。

同じように下を向いていたシスの視線が、こちらを向いた気がした。

「分からない。だけど、悠久の地が本当にあるのなら、俺はそこに向かおうと思う」

「悠久の地?」

聞き慣れない言葉だと思った。
2年旅をして数々の村や町を通り過ぎてきたけど、一度も聞いたことはない。

「人間が足を踏み入れたことのない場所だと言われている。どこにあるのかは分からないが、俺はそこに向かわなければならない」

「……そう」

どうして、とは聞かなかった。

同じ旅をする者だから。

旅をする者には複雑な理由がある。

それを無粋に聞くほど、僕は野暮じゃない。

だからと言って、これで僕とシスに起きた出来事を、終わらせるつもりも無いけれど。

「僕もそこに行くよ」

「ロノ!?」

飛び付くようなシスの片手が、僕の肩を掴む。
だけど怖じけない。

決めたことは突き通すんだ。

「僕はあいつらを許せない。純粋に、静かに暮らしていただけの村人達の痛みを、分かろうとしないあいつらが嫌いだ」

「俺に付いてきてはいけない……!!」

「なぜ?僕は旅人だ。留まる場所も、僕の帰りを待つ人も無い。悠久の地が本当にあるのなら、僕の旅人としての最後の地にしようと思う」

悠久の地。

一体何があるのだろうか。

もしかしたら、何もないかもしれない。

それ以前に、少しだけ、そんな地があるのかも疑わしい。

「僕も、この力を授かった本当の意味を……知りたいんだ」

だけど、僕の勘は訴えている。

行くべきだ、行け、と。

だから、そこに行けば真実を知れる気がした。

「……また、襲われる」

シスの言葉は小さいけど、僕を止めようとしているのが伝わってくるような、そんな響きを持っている。

もう、聞く必要は無い。

「この村を襲ったように、同じことを繰り返させたらいけない。またシスを狙うなら返り討ちにしてみせるよ」

シスは僕の言葉を、どう思っただろう。勇者ぶった、子供の強がりだと感じただろうか。

「何も、聞かなくていいのか」

シスの手は、力を無くして自然と離れた。それは諦めなのか、承諾なのか、微妙なところだ。

「聞かないよ。必要になった時、教えてくれればいい」

それが、僕の答え。
共に旅をするのに、理由はいらない。

「……分かった」

シスの枯れ葉を踏み締める足音が、背中から聞こえる。


(どうか、安らかに)


僕は雨上がりの白い光が射し始めた中、膝を折って村人達が安眠できるように、両手を重ねて祈りを込めた。





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あきゅろす。
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