03.追われる者
『こんな寂れた村の一つや二つ、消えたって世界は変わらない』
その言葉は考え方が違うとか、そんなレベルじゃなくて、全てが腐ってしまった人間の、戯れ言のような。
生きている人間の世界は一つかもしれないけれど、皆が皆、抱えている世界は違うことに、気付いていない。
「なんだお前は」
黒騎士達は僕を見て、一蹴する。
「村の子か?敵討ちなら止めておけ、もうこの村に用はないからよ」
「死にたいなら相手をしてやる」
ああ、この黒騎士達はなんて愚かなのか。僕は杖を持ち上げて、小さく呟いた。
03.追われる者
『痺れろ、ライジング・ダークネスト』
僕の杖を見て、黒騎士達の態度が変わった。だがそんな一瞬の戸惑いも、僕の魔法は見逃さない。
辺りを一瞬にして闇が覆い、空が曇る。ポツリと頬が濡れれば、瞬く間に強い雨となって襲い始めた。
「来るぞ!!」
稲妻が目掛ける先、避けようとした片方の黒騎士の鎧に衝撃が走り、唸り声が漏れた。
焦げた肩からは、黒い煙が上がる。
「チッ……!!」
「ただの子供じゃないのか……!!」
声からして、怪我を負ったのは偉そうなやつらしい。外見が同じ黒い鎧のため見分けが着かないが、性格的に、大分違いそうだ。
そして、勝敗を見極める力もちゃんとある。
「この村から立ち去れ」
黒い甲冑が何の意味を為さない、この戦いの行方は既に目に見えていた。
静かに言い放てば、男はゆっくりと後ろに下がり、黒馬の手綱を引き寄せる。
怪我を負った男を馬に乗せ、自身も馬に跨がり、僕を見下ろした。
僅かな隙間から見えた目が、僕の容姿を記憶しようと上下した、その時。
「ロノ!!」
「……シス?」
僕がここへ来た時と同じ方角から、シスが走って現れた。長い青銀の髪を濡らして、息を切らしている。
「この村はどうなっている……!?」
シスが言葉を最後まで言い切る前に、彼の視線が僕ではなく、馬に跨がった男達に移る。
そして、目を見開いた。
「見付けた……!!」
同時に黒騎士が呟いた言葉に、何故か緊張が僕を襲う。
「仲間だったのか……!!」
男が僕に向かって言った言葉に、シスが「違う!!」と叫んだのが聞こえた。
だが、状況が状況だ。
シスと仲間ということが、これからの旅にどういう影響を及ぼすかなんて分からない。
だけど、旅に巻き添えは付き物。いつ死んでもおかしくない旅人という人間に、どういう影響が及んでも構わない訳で。
「だったら何なの。さっさとこの村を立ち去らないと、その男の怪我だけじゃ済まなくなるよ」
「ロノ……!」
「だってシス、もう僕あいつらに手を出しちゃったから、今更引き返すつもりはないんだ」
どんな事情があるかは知らないけれど、命を奪われた村人の為に、僕は今、引く訳にはいかない。
これ以上、この村が傷付けられるのを見ていられないから。
「巻き添えに、したくない……」
「これは僕の問題だよ」
言い聞かせるように口にすれば、シスは何故か焦りと悔しさを交えた、苛立ちを隠しきれない顔をした。
「それで?あんたらは大人しく退いてくれるの?」
杖の先で静かに円を描くと、黒騎士達の乗る黒馬の真下に金色の紋様が現れる。
突然現れた輝きに動揺した馬達がそこから逃れようと暴れ始め、乗るものを振り落とそうと身を捩り出す。
「ッ……クソッ!!」
「分が悪い!一旦退くぞ!!」
怪我のしている男は一瞬傾いた仕草を見せるものの、馬の扱いに慣れているらしい黒騎士達は、巧みな馬術を用いて馬を操る。
「シルフィス=クロウッ!我々はお前を必ず手に入れてみせる……!!」
黒騎士達の乗った馬が燃え盛る炎の中に消えていく。
最後の言葉の意味なんて分からない。
彼等が消えた方向を、僕とシスは真っ直ぐ見据えていたのだった。
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