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01.束の間の二人
「シス、薪探そ」


そう言ったのは僕だ。

トーニャの山脈に入って、もうかれこれ2日目。僕達は運が良い。もう少し時期がずれていたら、確実にこのトーニャの山脈は雪に覆われていた。

お陰様で乾燥した薪は沢山取れるし、襲ってくる獣もこの時期は冬仕度で忙しいのかまったく姿を見せない。

食糧も持てるだけ蓄えてきたから、明日の朝、この山脈を抜けることができれば問題なく計画通りに旅が出来る。

そして、それはシスとの約束の時間。



01.束の間の二人





「これ位で良いか」

そう言ってシスが抱えてきた薪の量に、ちょっと引いた。

だって確実に、民家の2日分を越えていたから。(シスの長い腕から零れ落ちそうな位)

「十分過ぎるよ」

そう言って、僕達は暖を取る。
長く歩いた足は、一度気を抜くとすぐに疲れが襲ってくる。

ああ、足が鉛のようだ。

「なあ」

「ん、なに」

「名前」

確かに僕、名乗り忘れた。

「僕はロノだよ」

僕の名前を聞いて、シスは「そう」とだけ呟いた。

僕の名前はロノ=クラウン。
15歳にして、立派な旅人だ。

旅人になった経緯はまだ秘密。

なんでシスが僕の名前を知らないかって?

だって僕達が出会ったのは2日前、僕がこの山脈に足を踏み入れようとした時に声を掛けられたのが始まり。

だから何も知らないのが当然なワケで。

「シスってさ、この山脈越えた先に何があるか知ってるの?」

「知らない」

あ、そうなんだ。

言い方は素っ気ないけど、怒ってる訳じゃない。(多分)

彼は2日前、僕の前に突然現れた。

『山、越えたいんだ』

とても綺麗な外見をしていたから、まさかこんなことを頼むなんて思わなくて。

ただ彼の身体のあちこちに見える包帯が、気にならなかったと言えば嘘になるけれど。

「ロノは」

「ん?」

「知ってるのか」

「そりゃ、一応ね。まだどこに行くかは決めてないけど」

山脈のすぐ隣には確か、小さな村があるはず。そこで休憩しながら決めるつもり。

「ロノの旅は」

「え?」

「自由なんだな」

そう呟いたシスは、とても悲しそうな、寂しそうな瞳で、綺麗に笑った。
彼の世界は、きっと狭い。

「シス、疲れてる。寝ていいよ」

「起こせよ」

「心配しないで」

やっぱり。いつものシスなら、もう少し粘る。2日の夜を過ごして、彼には多く休ませた。

旅馴れてない彼には、いきなりの山越えはきつかったかもしれない。

「おやすみ」

「ああ」

暫くして聞こえてきた、規則正しいシスの寝息。
星の瞬く夜空を仰いで僕は願う。


(シスに自由を)


星が一つ、輝いた気がした。




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