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まほろば 
Hello Haro


Hello Haro




「ニール、イキテタ、イキテタ」
「え…ハ、ハロ?!」


綺麗にラッピングされた箱から飛び出してきたオレンジの物体を両手で受け止めて、ニールは驚きの声をあげた。

ライルからは誕生日プレゼントだ、としか聞いておらず。大きさもさることながら重みもずっしりとしていて中身はいったい何だろうと思ってはいたが、まさか嘗ての相棒が入っているなどとは予想すらできなかった。


「え?お、おい…ライル、これ?」
「ん?見ての通り、正真正銘のハロだぜ?」


呆然とした顔でハロを見るニールに、ライルは揶揄うように笑いを含んだ声で言う。


「いや…そうじゃなくって、だな」


長い間離れていたとはいっても、共に戦った相棒だ。
本物とレプリカの違いくらいはわかる。
だが、ニールが驚いているポイントはそこではない。

ハロはおもちゃのような可愛らしい外見をしているが、中身はCBの最先端技術の結晶である。
組織の機密情報だって詰め込まているのだ。
組織から離れたニールに与えていいものではないはずだ。


「いいのかよ?」
「ああ。このハロはもう重要機密は抜いてあるし、ガンダムとの連結も解除してある」


戸惑いながら尋ねるニールに、ライルが安心させるように告げる。
そして、ここからが一番重要なのだとでも言いたげに、ライルは若干口調を強めた。


「それプラス、いつでも俺たちとコンタクトとれるように特殊通信プログラムも搭載されてる」


グラハムのおかげでニールの生存を知ることができ、それからは定期的に連絡を取り合うようにはなったものの、CBは常に人手不足で多忙を極めており、この一年間で連絡が取れたのは実際には片手で数えるくらいでしかない。
しかも、ニールの強い要望で、スメラギとライル以外のクルーには存在を知らせていないので、余計に手段と時間が限られてしまっていた。

まあ、知らせてはいないだけで、イノベイターである刹那とヴェーダと直接リンクしているティエリアは気づいている節があるが…。
二人とも直接的には尋ねてくる事はないが、ライルからニールの様子を聞き出そうと探りをいれてくる。
元来率直な性格の二人であるから、さり気なさを装ってはいてもライルにはまるわかりなのだった。
あの二人はニールが幸せであればそれでいいというスタンスであるらしい。
ティエリアは若干戻ってきて欲しい様子だが、ニールの意思を尊重する方針であるのは刹那と一致しているようだ。

そんな二人の想いを知るからこそ、ライルももっとニールの近況を知っておきたいと思った。
グラハム・エーカーという伴侶を得ている今、身の危険の心配はないだろうが、まだまだ世界は安定しているとは言えない。
何か事が起こった時にすぐに連絡が取れないというのも、最後に残された唯一の家族として心配でもある。


「俺のハロとすぐに繋がるようにしてあるから、今度からは週に一回は連絡を取ること」


ニールはライルの言葉を聞いて暫く呆然とした後、ハロをぎゅっと胸に抱きしめる。
すると、ハロの目が赤く点滅して、メッセージを告げた。


「ニール、ライル。オタンジョウビ、オメデトウ!」
「「!!」」


それはライルにとっても思いがけないことで、目を丸くするニールと一緒に顔を見合わせる。

一体何時の間にプログラミングしたのだろうか…と、暫く唖然とした後、こんな芸当ができるのは刹那かティエリアしかいないであろう事実に思い至る。


「ははっ!まったく意外と気が利いたことしやがるねぇ〜」
「ありがとう……ライル。最高のプレゼントだ…っ」


「オメデトウ、オメデトウ」と何度も繰り返すハロを抱きしめたニールの頬に涙が一筋流れるのを見て、ライルは刹那とティエリアにこの涙を見せたいと切実に思う。

あの二人はニールが考えている以上に成長しているのだ。
過去に拘りつづけるニールよりもずっと…。

流されやすそうに見えてなかなか頑固な兄をどう説得したものか…と、ライルが言葉を探しているうちに、キッチンにケーキを取りに行っていたグラハムが戻ってきた。


「さぁ、二人とも。準備ができたぞ。冷めないうちにいただこう」
「ああ、悪いな。グラハム」


ニールは慌てて涙をぬぐうとハロを胸に抱いたまま、グラハムのもとへと歩み寄る。


「それが嘗ての君の相棒かね?」


先ほどの二人のやりとりが聞こえていたのだろう。
グラハムはハロと涙の跡が残る眦を交互に見比べると、複雑そうな微笑みを浮かべた。


「ああ…ハロは俺の戦友だ」


ニールは丸いボディを愛おしげに撫でた後、今度はグラハムの目線と合わせうようにハロを持ち上げた。


「そんで、こいつは俺の今のパートナー、グラハムだ。よろしくな、ハロ」
「ニール…っ」
「ハロ、ニールノセンユウ。グラハム、ニールノパートナー」


グラハムがハロごとニールを抱きしめようと両手を広げたのと同時に、ハロは目を赤く点滅させながらニールの言葉を反復すると、羽をパカッとあける。
そこからまるで握手を求めるように、細長い腕をグラハムへと差し出した。


「グラハム、ヨロシク」


その細長い腕をグラハムはきょとんとした顔で見つめる。
連邦軍ではハロほどの高度な独立人工AIは見たことがなく、ロボットとコミュニケーションを取るという状況は初めてだからだろう。
グラハムは暫く好奇心を抑えら切れない表情でハロを眺めまわした後、一つ大仰に頷いてハロの手を取った。


「ふむ。なるほど君もガンダムなのだな」


恐らくグラハムの中では色々な思考の経路を辿って導き出された結論なのだろうが、相変わらず凡人には理解するのが難しい突飛なことを口にする。


「おーい、お二人さん。料理が覚めちまうぜ」


紹介が終わるタイミングを待ってライルが声をかける。
二人の仲がいいのは良いことだが、放っておくと何時までも二人の世界から返ってこないのが困りものであった。


「すまない。では、改めて始めようか」
「ああ、今日はライルの好物ばかり腕によりをかけて作ったからな。いっぱい食べてくれよ!」


照れを誤魔化すように無駄にはりきった声でニールが料理をとりわけ。
いやまずは乾杯からだろう、とグラハムがグラスにシャンパンを注ぐ。
そんな二人の間でハロが嬉しそうに羽をパタパタと開閉させている。


二人と一体の幸せそうな情景を、ライルは苦笑を浮かべながらも穏やかに見守る。
家族を奪われ涙さえ流すこともできなかったニールが、こうして再び新たな絆を得られたことを、ライルは我がことのように嬉しく思った。

刹那とティエリア。あの二人がこの光景を見れば、同じことを思うだろう。

今度の誕生日はあいつらも呼ばないとな。と、ニールを説得することをライルは改めて決意する。
頑固者をどう攻略するかはゆっくり考えればいいことだ。
何せパーティーはまだ始まったばかりなのだから。


「さぁ、では改めて乾杯だ!」
「あぁ、そんじゃあ、せーの!」
「「「 Happy Birthday !!」」」






end


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あきゅろす。
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