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01…再生
  

今日は厄日だろうか。

「ひゃははは!!待てや女ァ!!」

出くわした妖怪の群れ。森を通ったのは失敗だったようだ。相手の人数はともかく地形が完全に不利だ。昼前だと言うのに薄暗く、湿気が身体にまとわりつく。何より足場が不安定なぬかるみ。最悪だ。
大笑いしながら追い掛けて来る妖怪。テンション高いなァ。暑苦しい。
───……せっかく今日は相手をする気分ではないのに。馬鹿共。
あぁ、イライラしてきた。非常に耳障りだ。虫酸が走る。吐き気がする。少しでも開けた場所に出たら直ぐにそのツラ潰してやる。
走りながらため息をつくという器用なことをしてみた。もぅ色々面倒くさい。考えるのも面倒くさい。眠いし。
袖に仕込んだ武器を指でなぞる。本当に、せっかく今日は平和な気分だったのに。
面倒事は早く終わらそう。そんで宿取って寝よう。

「─────────ッ!?」

その時不意に、眩い光が薄暗い森を照らした。太陽のそれとは違う、白く大きな光。その塊が私の正面に現れた。目を焼くような刺激的なものではなく、優しく温かな光。こんな腐界のような森には場違いなことこの上ない。
……………………ていうかちょっと待て。それが一体何だか知らないし興味もない。だが何故私の進行方向に出てくる?この距離ではいくら何でも…

「──………厄日決定、だなァ」

長時間走り続けていたせいで止まることが出来ず、私はその勢いのまま得体の知れない光の中に突っ込んだ。







「腹減ったァー」
「うるせぇ。河の水でも飲んでろ」
「ていうかまァた川魚かよ。そろそろ飽きンだけど」
「あと半日走れば街があるみたいです。もう少しの辛抱ですよ」

パチン、という音と共に焚き火から火の粉が舞った。川辺での休憩。
食べた後で若干の眠気が誘う自分の耳に入ってくるのは馬鹿共による雑音。非常に騒がしい。
しかし、奴が言うように4日続けて焼き魚で飽きが来ているのも確かだ。マヨネーズでもあれば何ら問題はないのだが。

「ああぁ!悟浄それ俺の魚!」
「だァから知るかっての。名前書いとけっつったろ。学べ猿」
「ンだとー?!この前コーヒーの缶を灰皿にしてたこと八戒に言うぞエロ河童!!」
「うわっ馬鹿お前…ッ」
「おや悟浄、どういうことです?」
「ぁ、悟浄ワリ…」
「あれほど言っているのにまだ分からないんですか貴方という人は。もしかして自殺願望がおありですか。そうならそうと早く言って下されば僕も鬼ではないのでそれ相応の対処をしますのに」
「違ッなんでそーなる…ってカフス外すなオイ!!だぁぁ猿!!助けろ!!」
「ごめんムリ!!まじムリ!!」
「うるせぇ!!静かに食え!!」

ガウンガウン

今日も着実に弾を無駄にする。
何故こうも同じネタで飽きもせず騒ぐことが出来るのか。これは一種の才能なのではないだろうか。迷惑なことこの上ない。静寂が欲しい。
尚も騒ぎ立てる猿共にもぅ数発鉛玉をお見舞いしようと銃口を向けた瞬間───…
視界が真っ白になった。

「───────ッ!!」
「何だ!?」

前触れもなく辺りを照らした光に顔をしかめた。自分達の居る直ぐ隣に光の塊のようなものが現れたようだ。
どこか神々しさを感じるそれ。
何事だ。
殺気も敵意も感じないが、取り敢えず身構えた。
その光の塊から感じた人の気配。
そして聴こえて来た音。
それが足音だと判断する前に────……
人が飛び出して来た。

「───三蔵!」
「………………ッ!?」

しかも、よりにもよって正面に位置していた自分の方に突っ込んで来た。わざわざ焚き火を飛び越えて。
余程のスピードで掛けて来ていたのか、避ける間もなかった。後ろに飛んで勢いを多少殺すことは出来たものの、衝撃を受け止めきれずに後ろに倒れた。思い切り砂利に背中打ち付ける。……クソ痛ぇ。

「三ちゃんナイスキャッチ〜」
「うるせぇ!殺すぞ貴様!」
「役得じゃねぇの。羨まし〜い」

笑うゴキブリ。殺す。ぜってぇ殺す。
取り敢えず、まだ自分の上に座り込んだままの謎のバカを退けようと短銃を取り出した。

「三蔵ッ!大丈………………あれ?」
「悟空?どうしま……………どうもお久しぶりです」
「はぁ?!お前…なーにしてンの」

降ってきたのは奴等の疑問を表す声。
本当に、何だと言うのだ。上に乗った奴も上半身を起こしたまま固まっているようだ。顔を見ようにも逆光のため非常に見辛い。
目を細めて凝視すると奴が此方を向いた。徐々に視界が開けていく。

「──…………貴様…沙弥か」
「……………………やァ」

何の前触れもなく飛び出して来たそいつは、俺達の見覚えのある人物だった。
自分達が旅立つ前に居た長安の賭場屋の居候の沙弥。色素の薄い眼に黒服に肩で切り揃えた銀糸。会うのは1年ぶりか。
普段は脱力感溢れるすわった目をしているそいつが呆けたツラをしていることからして、本人にもこの状況が理解出来ていないのだろうということが分かった。

「ホントお前、なにしてンの」
「さァ…何だろう」
「うわーッすっげ久しぶりだなぁ!」
「相変わらずだねェ」
「沙弥も、お元気そうで何よりです」
「ども」
「喋ってねぇでとっととそこを退け!!」
ガウンガウン
「…ほんと、相変わらず」
「それは此方のセリフだ!」

文句を呟きながら上を退くコイツに青筋を立てて言葉を返す。この状況で自分が文句を言われる筋合いは全くない。
無表情で淡々と喋る、人に媚びない態度はまるで変わっていない。

……一体この状況どういうことだ、という疑問に関しては考えるまでもなかった。

「よぉ、相変わらず馬鹿やってんな」

全ての元凶が新たな光と共に現れた。…いゃ、まだ元凶とは限らないが現状を穏やかな方へ導いてくれる存在ではないことは確かだ。

─────静寂を手にすることが出来るのは、まだまだ先らしい。

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あきゅろす。
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