通信スフィア5 ベベル寺院の前に設置したスフィアを映そうとしていたシンラは、思わず声をあげる。 「あれ?ベベルが繋がらない」 「じゃあ、先にキーリカを」 「キーリカのどこに置いたんだっけ」 「寺院の前と、港にーーあれ?」 モニターが映し出したのは、家の中だった。女がひとり居て、シンラの声にこちらを向いた。 「ドナ?」 ドナは腰に手を当てると、スフィアを覗き込む。 「港に居た子供たちが、届けてくれたのよ。ユウナ様の忘れ物だって」 「キーリカの様子はどう?」 聞こえるくらいのため息をつく。 「ヌージが姿を消したとたん、みんな右往左往ね。誰かに命令されないと、何をすればいいかわからないらしくて、早くも新しいリーダーを探しているわ。というか、私も頼まれたのよね『元召喚士として、街のリーダーになれ』って」 「引き受けるの?」 「他人のお守りなんて、ごめんだわ。まあ、これ以上、混乱が広がらないようにそれなりのことはするけどーーヌージが戻らない限り、落ち着きそうもないわね」 「そう・・教えてくれて、ありがとう」 キーリカとの通信が終わると、シンラは今いち度、ベベル寺院に置いたスフィアと接続する。 今度は、うまく繋がった。 「ユウナ、ベベルが映ったし」 見ると、スフィアから少し離れた場所に、褐色の肌の男が寺院を見上げている。 リュックはその男を指差す。 「ねぇ、あの後ろ姿・・」 見覚えがある。マローダだ。 しかし、彼は青年同盟に心酔していたはずだ。 「何してるの?」 「ん?あぁ、あんたか」 ユウナが話しかけると、マローダは振り向き破顔する。傍へ来ると、スフィアの前で胡座をかいた。 「見てのとおり、新エボン党の様子を偵察中っつうわけだ。議長は消えるわ魔物は出るわで、エボンはガタガタだ。警備も手薄になってるんで、俺みたいな青年同盟の人間が、大きな顔で歩けるんだ」 「楽しそうだねぇ」 「そりゃーーあ、やべっ」 マローダは焦った様子で立ち上がる。後ろから、新エボン党の兵が3人走って来るのが見てとれた。 「おい、貴様!何をしている!」 「今ごろ感づいたか?じゃあな!」 スフィアごしに手を上げると、ブリッジの方へ走っていく。それを追いかけて、兵の姿も消えた。 「行っちゃったよ・・」 「でも、マローダさんに気をとられて、スフィアには気づかなかったみたい」 「よかったし」 . [*前へ][次へ#] |