鋼の錬金術師 帰郷7 エドワードが出掛けると、ピナコはアームストロングを手招きした。 廊下に出ると、窓から日差しが入る廊下の隅に移動する。 そこには木製のテーブルと椅子。1メートル四方のグリーンボードが壁際に置いてあった。 ピナコは、徐に口を開く。 「少佐。あの子らは、毎日平穏無事に過ごしているだろうか」 そう言うと、のどかな窓の外の景色に目をやる。 「なんせ、こんな田舎だ。都会の情報はあまり入ってこないし、あの子らも手紙ひとつもよこさない」 煙管を深く吸い込むと、煙りを窓に向かって吐き出した。 「だから、心配でね……」 アームストロングも、窓の外を眺める。 「鋼の錬金術師と云えば、セントラルでも名が通っておりましてな。最も、それ故、トラブルに巻き込まれるようですが……」 アームストロングは、ひとつひとつ、丁寧に言葉を選ぶ。 真実を労りでくるみ 兄弟が歩いている棘の道を、ベールで隠し この、年老いた女性が、少しでも安心出来るように――― 「大丈夫ですよ。あの兄弟は――強い」 「強い……かい?」 テーブルの上の、フォトスタンドを見る。そこには――― 「そうだね。4年前、自分の腕と引き換えに、弟の魂を錬成した時も――軍の狗となることを決めた時も――大人でさえ悲鳴を上げる、機械鎧の手術に耐えた時も――あんな小さな身体のどこに、あれほどの強さがあるのかと思ったよ」 人体錬成によって、右腕と左足を無くす前のエドワードの写真があった。 「そして、そこまで強いからこそ。何かの拍子に挫けてしまった時――立ち直れるだろうかと、心配になる」 その隣りには、もうひとりの少年 身体を失う前の――アルフォンス 優しい目は、エドワードと同じ、金色。 「……そのための家族が、ここにあるではないですか」 「家族――かい?」 ピナコは、自分の2倍はあろうアームストロングを見上げた。 「あぁ…そうだったね。あの2人が生まれて来た時から、ずっと成長を見守ってきたんだからねえ……」 穏やかな瞳で、アームストロングは頷いた。 マリーゴールドが、摘んできた花を墓に供える。 黄色い軸の廻りに、白い花びらの野の花。 「ありがとう、マリィ……母さんも、きっと喜んでる」 墓標に刻まれた名を見つめて、エドワードは言った。 「……ねえ、エド」 「ん?」 マリーゴールドも、前を向いたまま言った。 「エドとアルのお母さんて、どんな人だったの?」 . [*前へ][次へ#] |