鋼の錬金術師 東方司令部03 「さて、本題に入るが…傷の男の件だけでなく、近頃の東部は非常に不穏な状況だ」 いつも楽観的な言い方をするマスタングには珍しく、慎重な構えだ。 「あの、テロリスト達のことか?確かに物騒だけど…全部捕まえたんだろ?」 エドワードの言葉を、鼻で笑う。 「あの程度の小物など、問題ではない。東部で多発している、失踪事件の事だ。今やセントラルでさえ、この話題で持ち切りだ」 「失踪事件…?」 殺人鬼の次は失踪事件。 田舎を旅することの多い2人には、遭遇することのない事件ばかりだ。 「東部の各地で、人々が失踪するという、奇怪な事件が多発している。全ての住民が、消えた村まである。それも突然、一夜にしてーーだ」 目の前に広げている、調査書類に一瞥した。 「原因は不明。捜査は難航。見えない恐怖に怯え、人々は軍に不満をぶつけ始めた。 最近は、『怪物の仕業だ』『人が地面に吸い込まれた』などと、ふざけた噂まで流れる始末だ」 忌々しそうに、マスタングは言った。 「怪物…」 エドワードは、ポツリと呟いた。 「各地を旅している君たちなら、我々の知らぬ情報も、あるかと思ってな。呼び出したのは、そういう理由だ」 「って言っても、怪物の噂なんてなぁ〜」 ヒューズが、眉を下げて腕を組む。重くなった空気に、ワザと明るく言った。 それが耳に入る様子もなく、エドワードとアルフォンスは視線を絡ませる。 「兄さん…」 エドワードは頷いた。 「大佐、俺たちリオールで、怪物に襲われたんだ」 「怪物だと?」 俄かに信憑性を帯びた噂に、マスタングは目を見張る。 「あぁ。コーネロって奴の神殿で、襲われたんだよ。そん時、マリィも一緒だったんだ。アイツにも、聞いてくれ。今、呼んでくるから」 それだけ言うと、エドワードは執務室を飛び出した。 「あ、兄さん!」 「マリィって?」 ヒューズは、アルフォンスに尋ねる。 「あ、あの、リオールで知り合ったんです。理由があって、ボクたちと旅をしてるんです」 「へ〜、一緒にねえ…」 はっきりしない説明だったが、ヒューズはそれ以上訊かなかった。 「…知っているのか?君たちの事情を」 訝し気に、マスタングは尋ねる。 「あ、はい…」 「じゃあ、賢者の石のこともか?」 驚くヒューズに、アルフォンスは頷いた。 マスタングとヒューズは顔を見合わせたが、それ以上は何も言わなかった。 _ [*前へ][次へ#] |