鋼の錬金術師 旅の終わり 旅のつづき1 全ては終わった。 遺跡を見下ろす丘で、マスタングは一連の事件の終息を部下に告げた。 それぞれ軍用車に乗り込むと、シャムシッドをあとにする。いつもはマスタングやホークアイと同じ車に乗るエドワードとアルフォンスが、ブレダやファルマンたちと同乗した。 事件は一応の決着を見た。しかし、マスタングたちの表情は浮かない。重苦しい空気の中、口火を切ったのは運転しているハボックだった。 「エドのやつ、つらいでしょうね・・・」 あの時、ジャック・クロウリーが泥と化して、エドワードが赤い石を破壊したことを知らせた。 それは同時に、 マリーゴールドの完全な“死”を意味する。 案の定、奥から走り出て来た一行の中に、 マリーゴールドの姿はなかった。 そこに到るまで、エドワードが彼女とどういう会話をしたかーー 誰も訊ねるとこもなかったし、エドワードも語らなかった。ただ、自分達と同乗しないことで、この話を拒んでいるのだろう。 「最愛の恋人を甦らせたいーーただそれだけの男の執念の結末か・・」 「悲劇ですなぁ・・」 感慨深く、アームストロングは呟いた。始まりは、゛愛゛だったのだろうから。いや、ずっと愛故にだったのだ。それが、どれ程の惨劇を引き起こしたとしても。 「クロウリーがエルマを蘇えらせていたのは、何の為だと思う?」 「エルマさんのため・・・ではないのですか?」 唐突なマスタングの問いに、ホークアイが答える。 ここなら、誰に訊かれることもない。この話題は、おそらく最初で最後だろう。 「最初はな」 「おっしゃりたいことの意味がわかりません」 「最初はエルマのためだったのだろう。 だが、彼女は安らかな眠りを望んだ。にもかかわらず蘇生をやめなかったのは、彼女の死を受け入れられずにいたジャック・クロウ リー自身のためではないだろうか。弱かったのだ。彼は」 「では、エドワード君はーー」 マスタングは砂煙を上げ前を走る車に眼をやる。 「 マリーゴールドの死を受け入れたのだろう。母親の死を、受け入れたようになーーー想像の域を出ないのだが」 マスタングは、そう前置きをした。 「錬成された マリィは、赤ん坊の様なものだったのだろう。まっさらな彼女に、父親が記憶を植え付けた。だから、細かいところで記憶の欠落があった。教えては不都合なことも多かったろうしな。特に、アニスの命を使って錬成してからは余計に」 「錬金術は、ルイーニ氏が教えたのでしょうか?」 「いや、鋼のの話だと、誰にも教わっていないそうだ。しかし、ヒューズの調べではアニスという少女が術師だったらしい。それも、かなり優秀な。家が貧しかったこともあって、働きながら錬金術を学んでいたらしい」 「・・・ルイーニ氏は驚いたでしょうな。 マリィ殿が錬金術を使い出して」 父親の動揺を思い、アームストロングは眼を伏せる。 「あぁ。彼女を犠牲にしたことを悟られまいと、ひた隠しにしただろうからな。偽りの記憶を与え、アニス・グリーンを封印したんだ。パンドラボックスにな」 マリーゴールドを錬成するために奪った命が詰まった、 マリーゴールドと云う名のパンドラボックス。ならば、最後の希望は、ジャック・クロウリーということになるのだろうか。 いや、違う。 ルイーニの希望はジャック・クロウリーだとしても、 マリーゴールドの最後の希望は、鋼の錬金術師ーーーエドワード・エルリックだ。 彼の記憶の中に残ることが、 マリィの願い。 何故か、そう確信した。 [次へ#] |