鋼の錬金術師 蒼き炎の錬金術師5 「大佐・・俺、人の命を奪うことになるのかな」 エドワードは、うつ向いて絞り出すような声で言った。 この惨劇を止めるには、殺すしかない。 たとえ捕らえられたとしても、すぐに逃亡される。どんなに見張りを立てても、どんな所に閉じ込めても、脱出出来てしまうだろう。 そしてまた、悲劇は繰り返されるーーー 「ジャック・クローリーのことか?」 今のジャック・クロウリーは、厳密には人とは云えないがーーー彼の顔や記憶を持ち、彼の意志を話すモノは、゛ジャック・クローリー ゛でしかないのだろう。 マリーゴールド が、 マリーゴールド で在るように。 「何を今更。゛軍の狗 ゛になれば、人間兵器として召集されーー」 「いつか、人の命を奪う日も来るかもしれない。それは、覚悟していたつもりなんだけどーー」 「怖じけずいたのか?人は殺せない。錬金術は誰かを傷つけるために有るのではないーーそう、言いたいのか?」 どんなに強がっても、彼はまだ子供だ。命を奪うことは、彼の心にはあまりにも負担が大き過ぎる。 大人とて、容易に耐えられることではないーーー ここで、優しい言葉をかけてやることは容易い。 だが、これがエドワード・エルリックの選んだ棘の道なのだ。 「今は、生きることだけを考えろ。余計な躊躇いは、自分の命を落とすことになりかねんぞ。君だけでなく、アルフォンスもーー」 「ーーー!!」 エドワードはハッと顔を上げる。 自分が居なくなれば、アルフォンスを元の姿に戻す者がいない。 一生、鎧の姿のままだ。しかしーーー ジャック・クロウリーを倒した後、 マリーゴールド はどうなる? 「気持ちは分からないこともない。だが、これしきのことで、いちいち立ち止まっていてどうする?」 「これしきーーかよ」 マスタングの進む険しい道に比べれば、クロウリーや マリーゴールドのことなど、道端に落ちている石ころ程度のことかもしれない。 だが、自分にとってはーーー 「どんな手を使っても、元の身体に戻ってやるーーそう言ったのは、君自身のはずだ」 「・・・・・」 エドワードには返す言葉がなかった。 彼自身が、マスタングにそう宣言したからだ。 「今までどおり、自分の信じた道を進め。だが、もし君たちが、クロウリーと同じように道を踏み外した時はーー」 マスタングは踵を返し、前を見据えた。 「その時は、私が責任をもって君たちを止めてやる」 この背を 鷹の眼が射ぬくようにーーー 千の言葉より、エドワードを導く強い意志の力溢れる背 「いくぞーー゛鋼の錬金術師゛」 青き炎の錬金術師は、そう云って歩き出した。 . [*前へ][次へ#] |