袋法師絵師
袋法師 訳文 第一段
第一段
世間の人々の噂は、いつも口汚いものであるのが当たり前のことではあるが。このような物語を書けば、好色な女は後の世までも語り草になるであろうに。
さて、神社に参拝した帰り道の途上で、三人の女たちは、都の外の遠い山路を辿り歩くが、かしこい道案内人もないので迷ってしまい、笹が一面に生い茂った狭い道を掻き分けながら垣などの両脇を歩いていたが、やがて、とある河原に出たのであったが、川の流れは増水したのか、その流れたるや逆巻いて、白浪が立っておそろしい姿になっていたので、岸辺にそのまま寄り添いながら、三人の女たちは渡し守のくるのを待っていたのだが、いかにも汚らしい僧侶が、墨染めの衣に襷（たすき）をかけての勇ましい恰好で、舟を岸に寄せて早く来いと差し招いている様子。女たちはその法師を見て、これは神さま仏さまが、きっと私たちが化物（あやし）の道に入り込んでしまったことを、憐れみお救い下さったのだと信じ込み喜び合い、一人はその喜びのあまり素早くその舟に乗り込んだ。残りの二人も、遅れてたまるか、と急いで舟に乗り込もうとする有様。その様子を見た法師はにやにやと笑いながら、竿をさしたまま他の女たちを乗せようともせず、岸に残った女たちの方を振り返り、なんらかの魂胆がありそうな様子を見せている。ほんとうに憎たらしい男である。
三人の女たちは法師を我が仏さまと両手を合わせ仰ぎ尊び、
「どうか、向こう岸へ送り届けてくださいませ。」
と頼むと、あぁ分かった、とばかりにうなずきながら舟を動かしだす。舟が川の中の島に着くと、法師はなにを思ったのかその小島に船をつなぎとめ、そして彼は楽しそうに小躍りしながら袈裟（けさ＝僧が衣の上に左肩から右脇の下にかけて着ける布のこと。種類は宗派や位によってさまざま。）を投げ捨てごろりと身を横たえて眠りこける始末。そして一向に舟を漕ごうともしない様子なのである。女たちはこの法師をどう扱えばよいやら分からず困っていたが、しかしどうしてもしなければならないことであれば、要するに法師に身を任せ機嫌取りをしなければなるまい、と覚悟を決めざるを得なかった。その様子見とばかりに、御所の乳母である、とても親しげな様子をした女を法師の元へ向かわせることにしたのだった。その年配の女は、
｢ご心配には及びません、法師さまがどのようなことをなさっても、法師さまのいうとおりに身をお任せいたします｣
といった。すると、これを聞いた法師は深くうなずいて大喜びしているふうであった。法師は三人の女の中から、乳母ではなくおとなしそうで美しい、愛想のよい女を指差してあの女がいい、などといいだしたのであった。三人の女たちは、
｢今はいかにいいあっても、結局は無駄なこと、ただ法師に心を許し身を任せるだけ、平然とそれを受け入れなければならないですよ。｣
と口裏を合わせ、そして二人の女は両手を肩まであげて、小袖を広げ屏風（びょうぶ）代わりとし、法師と女との情事を人目から隠すために動く。法師はその美しい可愛い娘を、なにもいわずに押し倒し、帯を解き引き寄せて裾を広げさせ、紅い腰紐が自分の頭にまとわりついているのも気に留めず、いかにも好色な様子で娘を心ゆくまで味わったのであった。
法師との情事を終えた女は小声で恥ずかしげにいった。
「不思議な法師さまですこと。絵に描かれた達磨大師に似ているみたい。その大師さまは面壁九年とやら座禅して、腰から下は腐ってしまったとか。だから大師さまの男根も、さぞかし腐ってしまわれたにちがいないというのに、この方のそこはなんと元気のよいことでしょうか。」
さらに、さきほどの女より三つか四つほど歳上と思われる女を法師は指差した。女たちは、もうこうなっては仕方ないと思い、法師の求める女を差し出した。女は情事では小袖を敷くものだと聞いていたが、法師はこの尊ぶべき袈裟を自分からささっと敷いて、差し招いてさきほどの若い娘と同じように心ゆくまで戯れ、交わり合った。
法師は次に、最初にうなずいた乳母を指差した。この女、当然のことながら乳母というほどなので処女ではないから、法師とはすぐに打ち解け共に戯れ、事に及んだ。法師は少しも怯む様子もなく、いきなり乳母を弄ぶが、女もさっきから二人の情事を目の前で見聞きしていて、とっくに興奮し濡れそぼっており法師の行為を心待ちにしていたため、その乱れ方は激しく、その勢いはまるで川の瀬の逆巻く流れのようで、さすがの法師も体が宙に浮くような、快楽に溺れる心地になってしまい、法師は抜き手で泳ぐように素早い早業で、女を恍惚の淵に送ってしまった。こうして法師は、一人ならず三人までも思いのままに抱き戯れて心ゆくまで味わってから、その女三人を舟に乗せ、向かいの岸に送り届けたのである。
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