袋法師絵師
袋法師 第三段 原文
第三段
 神詣かんもうでの女房の帰るさの事、あらましこそ御物語おんものがたり申しあげけれど、しかじかの事はもとより申すべき道ならねば、だいには知ろしめさむやうもなし。法師が事よきさいわいと思召おぼしめし、袋まいらせ上げたれば、御障子おんしょうじの中にふかくおさめられて、其後そのごはいかなりにけるといふことをだに知らず。御秘蔵おんひぞうのあまりにや。
今宵こよい、胸なんいためり、早くいねばや」
と、しとね遣戸やりどかけまはしつ、打ちさせ給ふに。
 人静まるほどに、その法師、袋の下より這いでて、女のそばに添ひしぬ。
 だいにも未だ寝ねさせ給はず、こは浅ましく心うきわざかな、おのづから人も聞きなば、浮名や洩れんと、へすへすわひ給へど、すべてこたへもせず、ふところへ手を差し入れて、へそのかたを掻きさぐれば、色めきて、股のなか、尻かたさま、ふのりをこぼしかけたらん様なるありさま。このもしさ、云はんかたなし。左の手して御ぐしをかきよせ、口をすはすは吸へば、御顔おんかおは涙にぬれたるにや。冷たくあたるに、御口おんくちのなか、あたたかになりければ、なつかしさ、いとほしさ限りなし。
 女、足をかがめ、ももをひろげて、腹、腰がほどを、わななかしつつ、
「これよや、これよや」
と云ふけしき、いと耐へがたげなり。
 やをら起きなほるままに、小袖のまへ引きよせ、ぬめり、とろめきたる玉門ぎょくもんのうへ、押しのごひて、ひげらで、三日ばかり過ぎたるおとがいの、ぞろそろとあるを、つびの口に差しあてて、顔をふるやうにしければ、鼻のうへ、眉のほどともなく、はせかけらるるに、法師の鼻の穴に入りてむせかへり、ひたと、しはぶきのみさせられはべれば、女、
「おします、おします」
とぞ云ひける。そののち、七寸ばかりなる黒金くろがねのふぐせのおしかり、ものおそろしげなるを、少し突きてはめて、静かにこすりまはすに、たいにも抱きつかせ給ひけるほどに、法師、押しかがめたてまつり、思うままに、ひねまはしける。されば、御枕おんまくらさだまらず、けゆく鐘にくたかけ鳥と、もろに、忍びかねたる御声おんこえも、となりのつぼねまでも聞えなんと、法師うたてくや思ひけむ。衣の袖を引きそばめ、おほひけるとなん。




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あきゅろす。
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