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SHUFFLE!-Only good days-
生きている



「はぁ……はぁ……ゆ、夢?」


 あまりの恐怖に襲われた俺は眠りから覚め、上体を力の限り起こす。服は汗でびしょ濡れになっていて、息づかいも激しい。そこで俺は何かが違うことに気がつく。俺が寝ていたのは楓の家のリビングではなく、誰かの家のベッドだった。

 カーテンから差し込む光が目に入り、思わず手で目を覆う。二日酔いとはいかないものの、やはり気分は良くなかった。惰性ながらも部屋から出た俺は、階段を降りてキッチンに顔を出す。するとそこでは二枚目じみた男が、エプロンをつけたながら朝食を作っている。

 ちょっと待て、今の男は誰だ? 今の光景が俺の常識を360度覆したような感じがしたのだが。再び俺はキッチンを覗く、しかしやはり現実は変わらない。そこで朝食を作っていたのは紛れもなく、魔王のおじさんだった。


「おはよう……ございます。魔王のおじさん」


「ああ、俊ちゃん。おはよう!」


「すみません、シャワー借りても良いですか? 汗でびしょ濡れになってしまったんで……」


「構わないよ」


 とにかくまずはシャワー浴びて、汗を流したい。昨日は酔いのせいでそのまま爆睡しちまったし、眠気を覚ますにはちょうどいいだろう。

 ってあれ? 俺そうしたら着るものがないじゃん。とりあえず連絡はしたが、どう考えても届くのは夕方だ。


「あの……おじさん、俺は服どうすれば良いですか?」


「それならそこの袋に入っているやつを着てくれ、君に似合うと思うんだが……」


 とりあえず何とかなりそうか、そうと決まれば善は急げだ。早速俺はシャワーを浴びることにした。


――…


「似合ってるよ俊ちゃん♪」


「ありがとうございます」


 俺が着ているのは紺色でどうみても高いとしか見えないようなブランドスーツセットだ。似合ってはいてもさすがにこれは恥ずかしい。かといっても脱ぐわけにはいかないし、別の服を着るわけにはいかないし。それに幾分動きやすいし、涼しい。通気性もバッチリ考えられたスーツだ、それにズボンも色落ちしないような素材を使い、水などをはじくらしい。


「本当にありがとうございます。服から朝食から何まで……」


「まぁ実際一緒に住むわけだし、これくらいは当然だよ。ネリネちゃんも見とれているみたいだし……」


「お、お父様……」


 ネリネは照れながら顔を赤める。似合っているかの実感はわかないし、ましてや俺はナルシストではない。


「ところで俊ちゃん、昨日寝言で『リコリス』といったが……何か分かったのかい?」


 リコリスと切り出したとたん、ネリネは表情を暗くして下にうつむく。聞かれるとは分かっていたが、こうも早く聞かれるとはさすがに予想していなかった。おじさんの目つきは真剣そのもの、隠すことは出来ないだろう。


「はい、ネリネの魔力の波長を見て確信しました。彼女はネリネの中で生きています……」


「ほ、本当なんですか!?」


「ああ、間違いない。分離も恐らく可能だと思われるが、でも失敗したら……」


 しかし魔王のおじさんは至って冷静だった。それでも助かる確率が高いからだろう、もし魔力の少ない者、あるいは無いに等しいものだったら成功する確率はガクンと下がる。でもネリネの魔力は通常の魔族よりもかなり高く、町一つを軽く消滅させるだけの力がある。その魔力を媒体に利用することで成功する確率はグンと上がる。

 俺は神族でも人族の血が混ざっている。もう少し言うなら、神族の血が濃いのだ。その中で俺が得た能力が相手が生きているかどうかを触らずに分かるということだ。それは距離が遠くとも同じである。


「リコちゃんが生きているんですか……」


 分離の成功する確率は魔力によって比例すると言ったが、一度合成した魂を再び分離するとなると確率は低くなる。それでも助かる確率が高いのはネリネの魔力のおかげだ。しかし分離を決意するのは、ネリネ自身だ。俺が首を突っ込むことじゃない。


「じゃあ俺ちょっと出掛けてきます。行きたいところがあるので」


「うん、分かったよ。くれぐれも気をつけてくれよ」


 そして俺は魔王邸を後にした。

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