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SHUFFLE!-Only good days-
HANABI!



「稟くん?」


「ん? ああ、すまない。行こうか……」


 墓前から離れた俺は水桶を肩に担ぎ上げ、その場を後にする。この後は楓と一緒にスーパーに買い物に行く予定だ。本当は楓だけが行くつもりだったのだが、そうすると俺が家に一人ぼっちになってしまう。

 さすがにたまには楓とも買い物をしたいし、俺が一人で家で待っているのも寂しい。そんな理由からついて行くわけだが……多分俺は見て終わりそうな気がする、以前買い物に付き添いしたときに手伝おうとしたらものの見事に泣きそうになった。

 美少女、涙、上目遣いときてしまったら手を引くしかない。っていうか男子はノックアウトされてしまうだろう。


「それにしてもこの時間凄い混むなここ……」


「だから先に帰っていてくださいと言ったんですよ?」


「いや、帰ってもたそがれることしかないぞ!」


 ちょいとウケ狙いで頬を膨らませて、すねた少年を演じてみる。楓はポカーンとして見ていたが、やがて小さな笑いを表情に出す。

 こういう時の楓はいつもでは見せない可愛らしい笑い顔を見せてくれるが、よく意味が分からないような発言をした。たそがれている俺が絵になると言われても、喜べるはずがないし逆にどうリアクションを取ればいいのかが分からん。でもこの表情を見る限り、いつもの楓に戻っているようだ。


「フフフ、ごめんなさ……あ!」


 突然楓が目を大きく見開く。その視線の先にはレジにて三割引と書かれた花火が置かれていた。そういえばいつ以来だろうかここ最近花火なんて全くやらなかった、というよりもやろうとも思わなかった。


「買うのか?」


「いえ、ちょっと目に付いただけです。それに家計を預かる者として無駄遣いは出来ませんから。これだけお会計済ませてきちゃいますね」


「ああ!」


 すると楓はあいているレジに向かって歩き出す。楓がレジに付いたのを確認した俺は、先ほどの花火の方へ目をやる。

 さて、楓はレジに向かったことだしどれにするかな、種類がたくさんあるから悩みどころだが……まぁテキトーで良いか。


――…


 時間が経つのは早いものだ。夏だから昼が長いとはいえども夜の七時過ぎともなれば日はどっぷりと落ち、代わりにまばゆい光を放つ月が空に立ち上る。

 刹那、広い夜空に花火独特の音が鳴り響く。どうやら近くの家で花火をやっているようだ。どうやらここでこの花火の出番のようだ。


「近くで花火やってるようだから、俺たちもやるか?」


「あ、でもさっき買ってこなかったので……」


「花火ならあるぞ」


 俺は先ほど買った花火を楓に見せる。すると楓の表情が俺を疑うような顔へと変わった。やばい、俺が買ってきたのに気が付いたかな。


「もしかして私のためにわざわざ買ってきてくれたんですか?」


「ち、違うぞそれは!! 去年の余りだ。ともかくやるぞ花火!」


 かなり苦し紛れについた嘘、だが実際俺が買った現場を見たわけじゃないからいくらでもごまかすことが出来る。俺に不可能という文字はない。俺は楓に買ってきた花火を預け、バケツを探し始める。だがこの行為が誤算だったのだ。


「これ、製造年月日が今年です」


 しまった、せっかく上手くごまかしていたのにまさかそこに付け込まれてしまうとは……内田龍、一生の不覚!


「稟くん、嘘つきです」


「悪い、騙すつもりじゃなくて……その気にするだろ?」


「分かってます、稟くんの嘘は誰かのためのものですから」


 とりあえず何とか楓は許してくれたし、良しとするか。ただ楓の表情がちょっと変だ、何か急にぼーっとして……まさか夏バテでもしたのかな?


――その後、両王のせいでその場の雰囲気もガタガタになってしまったわけだが、久しぶりの二人だけでの夏休みを過ごせたことが俺にとっては大きな思い出になると気が付くのは、翌日の出来事だった。

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