SHUFFLE!-Only good days-
廻り始めた歯車
「じゃあね稟、楓ちゃんのことしっかり見てあげるのよ」
「うん、行ってらっしゃい♪」
――八年前のあの日、楓のおじさんが懸賞で当てた旅行券を俺の母さんの誕生日プレゼントとしてくれたのだ。人数は三人で普通だったら俺を含めた三人で行くはずなのだが、風邪が治ったばかりだった俺を残して父さんたちだけで行ってもらうことにした。
いつもは俺が迷惑をかけている身だ。二泊三日の旅行ぐらいゆっくりしてきてもらいたい、ただ三人分の旅行券のため俺の代わりに楓のおばさんが行くことになったのだ。
この時完全なお母さんっ子だった楓はもちろん最初は拒んでいた。しかしそこは楓のおじさんが説得してくれたのか、出かける日には笑顔で三人を見送っていた。
「いってらっしゃいお母さん、早く帰ってきてね……」
楓のおばさんはにっこりと微笑むと荷物を車のトランクに入れ、町を後にした。
この後、当然一人暮らしになってしまう俺をおじさんが預かり、帰ってくるまでの面倒を見てもらうということになったのだが、俺はこのときまだ気が付くすべもなかった。さっきの会話がまさか最後の会話になってしまうだなんて。
俺たちの運命の歯車は音を立ててゆっくりと動き始めた。
「あれ、楓ちゃん顔が赤いよ?」
父さんたちを見送った後、芙蓉邸に入った俺はまっさきに楓の体に異変が起きているのに気が付いた。楓の顔が赤く、目は充血しているしていることからどうやら風邪を引いてしまったようだ。
ひとまず楓を部屋に連れて行った俺はおじさんにこのことを伝えることに。おそらくただの風邪だとは思うが、もしもってこともあり得る。
「すまないね、稟くん……」
「いえ……当然のことをしたまでですから」
『女の子は誰よりも大切にする』少々恥ずかしいが、俺が小さい頃心がけていたことだ。今となっては懐かしい思い出だが、当時の俺はこれを本気で実行していたんだから恥ずかしいものだ。
しかしただの風邪ではあったものの、夜になると熱は39度近くまであがり、呼吸も苦しくなるような状態にまで陥ってしまった。
もちろんおじさんはこれを旅行に出かけているおばさんに連絡をしたのだが、それを聞いたおばさんはすぐに帰ってくるとおじさんに伝えたそうだ。何も知らない俺は、父さんたちがどうなるかなんて想像もつかない。
「楓ちゃん……」
俺は夜になっても楓のそばに居続けた、楓がどうかなってしまわないだろうか。それがただ心配でそばを離れることが出来なかった。
「すまない、電話に出てくるよ。ちょっと待っていてくれ」
俺はこの時、楓のおばさんに帰ってきてほしいという気持ちばかりが表に出ていた。風邪を引いた幼なじみに何もしてやれない、苦しんでいるのに何をしてあげることもできない。こんな時、おばさんがいれば……そう思った刹那、突然部屋の扉が勢いよく開き、血相を抱えたおじさんが飛び込んできた。
「旅行に行った三人が……交通事故にあった」
「え……」
俺はその言葉に思わず我を失う、今朝まであんなに元気だった父さんと母さん、そして楓のおばさんが……。俺は椅子から立ち上がり、おじさんの腰を掴んだ。
「どこなんです!? どこの病院なんですか!?」
そこから先のことはほとんど覚えていない、ただ三人が無事であることを願いながら病院へとむかった。
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