SHUFFLE!-Only good days-
人工生命体、彼女の名はプリムラ
ネリネのことについての説教が終わった後、日直で楓の帰りが遅くなることから俺は先に帰っていた。それにしても良く体育館の消滅だけで済んだと思う。今回のことでネリネの俺に対する沸点がかなり低いということを記憶にしっかり焼き付けておかなければ。
なぜか胸騒ぎがする、何も起こらなければそれで良しなのだが、こういう時に限って何かが起こるのがオチだな。
俺は近くのゲーセンを通り過ぎる直前で足を止める。怪我をしたとかそういう分けでは無いのだが、俺の心が勝手に足を止めたのだ。
視線の先には一際目を引く少女がいた。身長からして中学校の二、三年ぐらいに見える。その少女は特に何か行動を起こすわけでもなく、表情一つ変えずにクレームゲームの商品を見つめている。
別に俺はロリコンではないが可愛いと思った、これは俺の正直な心境だろう。
「クレーンゲームじゃ幼子は釣れないよ稟」
「ハァ……まぁお前に何言っても無駄だということは、分かっているからな。もう好きにしろ」
「ミスターロリペドフィン」
どうやら男には拳で語らざるおえない時があるもんだよな、うん。正直このナンパ男との仲を保つべきか考えていたところだが、もうコイツのことは知らん。
それにしても最近は可愛い女性に良く会うような気がする。これも運命というものなのだろうか、それともただの偶然なのだろうかは神のみが知るものだろう。
「……稟、前言撤回だ。しっかり取れたみたいじゃないか」
「は?」
俺は樹の言っていることが理解できず、顔を思わずしかめた。
その刹那、俺の制服の端が何者かによって掴まれる。最初は通行人が当たっただけだとばかり思っていたがどうやら違うようだ。
俺が振り向いた先には先ほどクレーンゲームの賞品を見つめていた少女がいた、その少女は俺に何かを確認するかのように、小さな可愛らしい声で語りかける。
「りん……りん?」
「確かに俺は稟だけど……」
小さな声ではあるが確かにその少女は『稟』と呼んでいた。が、この少女のことに関しての記憶はまるで浮かんでこない。現に俺の目の前にいる少女は俺の名前を呼んでいる。
シアやネリネのように遊んで知り合ったのではないと言うのなら、一体どうやって?
「リ……ネリネ知っている?」
「君……ネリネの知り合いなのか!?」
俺が言い終わるとほぼ時を同じくして、その少女は俺の胸の中に飛び込んできた。
俺に会うことを願っていたかのように……
それと同時に樹はすでにあさっての方向に向かいだし、誤解されるようなセリフを言い始める。
「りん……やっと見つけた」
「ち、ちょっと」
いくら言っても『りん、見つけた』という単語の繰り返し、離れる兆しが全くみられない。
この状態のまんまでいると二次災害が起こりそうな予感がしたため、とりあえず家までつれて帰ることに。
「あ、稟さま。先ほどは申し訳ありませんでした……どうかされましたか? お疲れのようですけど」
掃除をしていたネリネはすぐに何かに気が付いたようで表情が固くなる。
だが俺の後ろに金魚のフンのようにくっついていることにはまだ気が付いてはいないようで、不思議そうな顔をして俺の顔を眺める。
「まぁ何かに取り付かれたと言うべきなのだろうか……」
「ネリネ……」
不意に後ろに隠れていた少女がネリネの名を呼ぶ、すると今までのネリネの表情からいっぺんし、驚きの表情へと変わった。
「リムちゃん!?」
――…
その後、いったん楓の家に戻った俺はネリネと魔王のおじさんを呼び、プリムラについてのことを詳しく話してもらった。
プリムラは魔法の研究のために作り出された最強の魔力を持った人工生命体だと言うこと、プリムラが三体作られた内の三号体で唯一の成功体だということ、魔力の暴発が起こった場合、都道府県の一つは軽く消滅してしまうという、いわゆる歩く核兵器だということも。
さて、問題はプリムラの居場所だ。もちろんこれ神界と魔界の問題であるため、俺たち人間が口出し出来るようなことではない。
「しばらくはウチに住ませてみよう。また施設に戻らなければならなくなるだろうけど……」
「私はここに住む……りんがいるから」
いや、さすがにここに住むと言われてもな。今俺自身が居候の身だし、たとえ自分の家の方に住まわせたとしても楓を一人にしてしまうことになってしまう。それにもかかわらず、魔王のおじさんは住まわせることを前提に考えている。
正直俺は返答に悩んでいたのだが楓の一言で俺の考えは決められた。
「私は稟くんが良いのなら構いませんよ」
思いも寄らない楓の言葉に形成は逆転して四対一になり、俺の心はあっさりと白旗を挙げた。
「分かりました、俺たちの方で預かります」
「りん……」
同時にプリムラの表情が若干緩み、小さく微笑んだ感じがした。
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