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アーシス 〜the Guardians〜
高須兄妹と秘薬
昼休み

授業終了の予鈴が鳴ると同時に、鈴と沙夜は教科書などを片付ける。そして、教室を出ると急ぎ足に普通科校舎にある学食へ向かった。



この瑞穂高校は、全校生徒の人数に対して学食の席数が、それ程多くない。

もちろん弁当を持参する生徒や、購買で買って食べる生徒もいるのだが、学生寮から通う者は全員学食で昼食を取ることになっていた。

そのため、席取りはちょっとした戦場のようになっていた。



「よかった、まだ空いてる」

鈴は学食に入るなり、運良く空いている席を見つけた。

「鈴、私カレーにするけど同じのでいい?」

「いいよ。それじゃあ、僕は席で待ってるから」

「うん、分かった」

そう言うと、沙夜は自分と鈴の分の昼食を取りに行った。一方の鈴は、自分と沙夜の分の水をコップに注ぎ、それを持って空いている席に座った。

「でも、何でこの4つの席が空いていたんだ?」

鈴は辺りの席を見回す。確かに、学食は鈴の感じたように彼が座っている席以外、ほぼ満席のようだった。

「まっ、空いてるならいいか」

鈴は独り言を言って、手元にある水を飲もうとする。

だが…

「動くなよ、風穴開けるぜ」

鈴がコップを持った瞬間、黒く冷たい物が彼の頭に突き付けられた。

「見つかったら、また妹に蹴り飛ばされるんじゃないのか?今すぐに、それをしまった方がいいと思うよ」

「ふん、相変わらずのヘタレだな。もう少し好戦的になれ!」

鈴に銃口を突き付けていた少年は、愚痴をこぼすと彼の頭から拳銃を離す。そして、腰の後ろにあるホルスターにそれをしまった。



彼は高須昴(たかすすばる)。鈴の隣りのクラスに在籍する魔法科の生徒であり、瑞穂市の西側に隣接する小崎市のアーシスでもある。



「全く…久々に会ったんだから、少しは俺の相手をしろよ。いつも近衛先輩ばっかでさ」

「近衛さんの場合は、戦わないと本当に殺されかねないから、仕方なくやっているんだよ。それより、高須妹の方はどうしたんだ?」

鈴が昴に尋ねると、彼は立ち上がり学食の入口から中を見回している女子生徒に手を振る。すると、彼女は昴のことに気付いたのか、彼の座る席に近付いて来た。



彼女は高須茜(たかすあかね)。同じクラスに在籍する双子の妹であり、彼以上の実力を持つアーシスでもある。



「兄様、ここにいましたか。心配しました」

「別に心配なんていらねえよ。それで、例の物はちゃんと持って来たか?」

「すっすみません、忘れてしまいました。今すぐ取って来ます!」

そう言うと、茜は急いで魔法科にある自分の教室へと戻って行った。



数分後

すでに昼食を食べ始めていた3人の所に、手に黒いケースを持つ茜が戻って来た。

「すみません、遅くなりました」

少し息を切らせながら、彼女は椅子に座り持って来たケースを昴に渡した。彼は一旦箸を置くと、ケースを受け取りそれを開ける。

「なぁ鈴、これが何か分かるか?」

昴が鈴にケース収められている物を見せるために、その向きを変えて彼の前に差し出す。

ケースの中には、無色透明の液体を閉じ込めているとても小さな小瓶が1つ、大切に入れられていた。

「お目にかかれない代物だぜ」

「かなり高価な魔法薬の類か?」

「ご明察!これは秘薬エリクシールだぜ」

すると、今までただ2人の会話を聞いていただけだった沙夜が、驚きの声を上げた。そして、即座に昴の方を向きその襟元を捕まえる。

「ねぇ、それどこで手に入れたの!!」

沙夜は人が変わったかのように昴を揺すりまくった。その様子を見た鈴が、慌てて沙夜の手を昴から引き離し彼女を止めた。

「なっ浪川…お前って珍しい魔法薬を見ると、相変わらず人が変わるな」

そう苦しそうに呟く昴。

「ごっ、ごめん高須。それで、どこで手に入れたの?」

「この前小崎市のアーシスで、ユニコーンの角の密輸現場を制圧したって、知ってるだろ。その時の押収物の中にこれがあってな、思わず貰っちまった」

昴が笑いながら言った途端、今度は鈴と沙夜が同時に掴み掛かった。

「何で、押収物を貰ってるんだよ!」

「普通は、県の方に引き渡すか売却または廃棄処分でしょ!何で貰えたの!」

昴は再び体を揺すられる。しかし、2人に揺すられる兄の様子を見ていた茜が一言、

「課長が許可したのです」

と言うと、鈴たちは彼から手を離して、納得したように溜め息をついた。

そして、口を揃えて「あの課長さんなら…」と呟くと、再び昼食を食べ始めた。

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