守護の鬼〜strange bloods〜
自殺....
氷柱は湯飲みに入った紅茶を二つ用意して、環の座るテーブルに置き、氷柱は自分の分の紅茶をさっさと飲み始めた。
「で、鬼幽科学がどうかしたんスか?」
「あの4人ね、見つけて逮捕したんだよ」
氷柱は紅茶をすすりながら、目だけを動かして環の話を聞いている。
たまにアチッとか言って痙攣するような仕草を繰り返しながら。
「逮捕したんスか。別に妥当でしょうが?」
言い終えると、再び湯飲みを口元に近付ける。またもや、痙攣している。
学習しないヤツだ。
というより、支部の守護棟の一構成員が本部の上官の話を聞く態度とはとうてい考え難い。
しかし、環はそんな氷柱を笑いながら、ニヤニヤした目で見ていた。
「あの4人、死んだよ」
環はニヤニヤした表情を変えずにはっきりと言い切った。
『死んだ』と命のかかった言葉を。
「え……?」
ズズズ、と紅茶をすする氷柱の口がまだ半分も飲めていない湯飲みから離れた。
それと入れ替わるように環は自分の手元に置かれた湯飲みをわしづかみにし、中身を一気に飲み干した。
そして、カタン、と空になった湯飲みを置いた。
「あれ?聞こえなかった?」
「よく聞こえましたよ。どういうことだ?」
「だから死んだの。正確には自殺」
はテーブルに肘をかけ、指を絡ませ、顎をおく場所を作った。
そこに顎を置いて話を始めた。
「自殺?」
「そう、自殺。刃物は取り上げてたから、不思議でしょ?あ、も一杯くれる?」
環はそう言って氷柱に空になった湯飲みを向けた。
氷柱は席を立って再びキッチンへと向かった。
「監視カメラにも人は写ってなかったし、センサーにも犯人は写ってなかったからね」
「なのに、どうやって死んだんですか?」
氷柱はポットで再びティーセットにお湯を入れた。
「風」
「風?」
「そ、守護士の使う風で引き起こされた鎌鼬ね」
不意に、氷柱の手が給湯ボタンから離れた。
「まさか、殺したのは守護士だとでも言いたいのか?」
「いんや、違うよ。自殺って言ったでしょ?」
そう聞いた氷柱はポットから再びお湯を出して、足りない分を継ぎ足した。
「でも、人間が風を操れるようになるようにするには、奇神の力を応用するか、守護士用の試験を受けなきゃいけないのは知っているよね?」
そう、氷柱も今こそは風を操れるが、それが生まれつきできたと言うわけではない。
守護士による特別な訓練があって今の氷柱がある。ちなみに、炎は生まれつき操れていた。
「……と言うことは」
「そ、背後に奇神がいるね。それに、『捕まったら死ね』とかの暗示術をかけられてたんじゃないかな?多分、風の操り方も彼等も知らなかったと思うよ?暗示術に書き込まれた行為を無意識に行なったんじゃない?」
氷柱は湯飲みに紅茶を注ぐ。
手が少しだけ震えているのがわかる。
しかし、表情からは少しだけ笑みが溢れていた。
(なんてこった……烈火の言ってた事が当たってるじゃないかよ)
「ねぇ、氷柱くん?入れすぎてない?」
それを環の言葉が遮った。
「え?……ってあっつうううぅ」
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