治療法
「電車の中で出会ったキミ」(お好きなドクター)担当
キミはいつもこの電車のこの場所に。必ず座っていたね。
まるで、僕を待ってくれていたかのように。
そんな事あるわけないと思いつつ、僕は今日もキミが乗っていた電車に。
乗る・・・。
今から一年前。僕はいつもより少し仕事が遅くなって、いつもと違う電車に乗っていた。
僕には電車に乗ると車内を見渡してしまう、変な癖があった。
この癖のおかげで、キミを見つけられたのかもしれないけど。
電車に乗り込み、いつものように何気なく車内を見渡す。
すると、女子高生が座っていた。こんな時間に珍しい。部活帰りにしては遅すぎるんじゃないかと。
最初はそう思っただけだった。
次の日も、仕事が遅くなって前と同じ電車に乗った。
この日もキミは同じ所に座っていたね。
キミの前の席が空いていたから、キミを少し見てみたくなって、キミの前に座った。
そこは今の僕の指定席。
その瞬間、僕はキミのすべての虜になっていた。
次の日も、また次の日も。気付けば僕はキミと同じ電車に乗っていた。
仕事が長引いているんじゃない。わざと。
ある日、いつものようにキミの前に座っていると、キミの読んでいる本から、何かが風に乗ってこちらに落ちてきた。
拾い上げると、それはしおりだった。キミらしい、花柄のきれいなしおり。
キミは・・・気付いていないようだった。
「落としましたよ。」
「あ、すいません。ありがとうございます。」
そう言いながら微笑んでくれたキミ。
キミのその笑顔は一生忘れないだろう。
あれは、ついこの前の事だった。僕はいつものように、いつもの場所に座ったんだ。
なのに、あの日は何かが違ってた。
僕の前に、キミがいなかったんだ。
キミの代わりに、しおりがあった。きれいな花柄の。
僕はしおりを手に取った。
電車から降りるまで、ずっと握りしめていた。
あれから、キミをめっきりと見なくなってしまった。
そして今日も。やっぱりキミは乗っていなかった。
あのしおりはいつも持ち歩いていた。
いつどこでキミを見つけても良いように。いつでも渡せるように。
キミの「ありがとう。」が聞きたくて。
いつもの駅で電車を降り、改札を出た、その時だった。
キミが歩いてくる。
紛れもなくキミだ。
僕は真っ直ぐにキミに向かって歩く。
キミが見えてくると同時に、僕のキミに対する想いも見えてくる。
僕はキミにしおりを渡すから。
キミに想いを伝えるから。
キミは想いを受け止めて?
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