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Snow memory
第三話
あちらこちらから出てくる野盗と遭遇するたび、道を変え、遠回りしながらも少しずつ港へと近付いていった。

程なくして正面に港が見えて来る。

潮風の匂いが辺り一面に広がり、波飛沫の音が聞こえていた。

野盗達は百メートルほど後方を追いかけて来ている。

このまま進み、追いつかれる前に倉庫に逃げ込めば、見つからないままやり過ごせるだろう。

裏をつかれて納屋で待ち伏せされていたのは想定外だったが今度こそはいける。

「くっくっくっ!!ご苦労だったな!長倉正輝警部補!」

港岸に出た瞬間、僕達の期待を裏切るように待ち受けていたのは野盗の集団だった。

その中央に恬として立ち、笑い飛ばしたのは野盗のボスである高津総蓮(たかつそうれん)だった。

「な、なんで…!?」

正輝は驚きを隠せなかった。

納屋の時も確かに想定外だったが、納屋の所有は警官隊にあるため行動が読まれたのは理解出来なくもない。

だが、今度は違う。

一度追っ手から逃れ、わざと正反対にある港へ来たのだ。

「くっくっ…教えてやろうか?俺らは一度お前らを追うのをやめたんだ。お前らはまいたつもりだっただろうがな」

追っ手から逃げる途中、確かにまいた。

それを確認して少し休憩していた。

「だが、本当は違う。俺らはその間に先回りするための準備をしていたんだ。…くっくっ!まだ気づかないか?」

先回りの準備?

思い出せ。

ここに来るまで何度も野盗と遭遇した。

その度に道を変えながらここに辿り着いた。

だが、もし野盗が狙って現れているとしたら…

「…まさか!?」

「そのまさかだ!お前らはここへしか逃げられないように踊らされていたんだよ!くっくっくっ!!いい!いいぞ!その絶望に染まっていく顔!!実に愉快だ!これだからやめられない!」

「そんな…」

なんてことだ。

高津総蓮たる男は全てを見透かし、罠を張っていた。

総蓮の思惑通りまんまと罠にかかり、僕達は逃げているようでその実、追い込まれていた。

「さぁ!女を渡せ!そいつは俺が見つけた女だ!よもや抵抗することも叶うまい!」

総蓮は手を広げ、勝利を確信して高らかに笑った。

「今宵は実に最高の夜だ!いい女と完全なる勝利!!帰って美酒に酔いしれるとしよう!」

彼女がギュッと僕の腕を掴んだ。

「正輝さん…」

掴まれた腕に彼女の怯えが伝わってくる。

大丈夫、そう一言声を掛けてやりたかったが正輝は声を出せなかった。

武器を持った野盗達に四方を囲まれ、逃げ場なんてない。

この場で戦うにしろ、武器の一つもない状況で大人数を相手にするのは無理がある。

「どうした?早く女を渡せ」

彼女を囮にして油断した隙に武器を奪うか?

いや、それは駄目だ。

彼女を危険に晒すわけにはいかない。

危険だがこれしか…

正輝は一か八か賭けに出た。




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