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Snow memory
第一話
「いたか?」

「いや、見当たらない!」

「くそっ!あのやろう…どこいきやがった。いいか、必ず見つけ出せ!女と一緒いるんだ。そう遠くに行ってないはずだ!」

怒鳴り声を響かせ、男達が走りまわっている。

その様子を伺いながら、息を殺して男達が走り去るのを待っていた。

幕末の戦乱が終え、明治という新時代が来ても世の中が急に変化するわけがなく悪党は存在している。

放っておけばこんな面倒にならなかったのに、気がついたら野盗に絡まれていた女を助け、こうして追われていた。

こんな時に限って刀も持ってきていない。

とまぁ、今更後悔してみてもすでに遅い。

とにかく何とかして逃げ切らないと…

「あの…」

後ろにいた女が声を掛けてきた。

「はい?」

「助けて頂きありがとうございます。何とお礼をしたらいいのか…」

丁寧にお辞儀しながら礼を言う女はどこか高貴な家柄を彷彿させる。

自分とは不釣り合いだな、なんて思いながら姿をよく見ると女の着物はあちこち破れて透き通るような白い肌が露出してて裸同然とも言える。

「いや、お礼なんて…それより、こんなのしかないですが着て下さい」

こう見えても男なのだ。

正直、そんな姿でいられると困る…色々と。

冬も半ばに差し掛かり、夜ともなれば一段と寒さが厳しくなってくる。

着ていた服を差し出すと女はようやく顔を上げた。

「あ、ありがとうございます…」

頬を赤らめ、服を受け取る。

その仕草や顔立ちに鼓動が高鳴った。

「あ…うぅ…」

やばい、不覚にも一目惚してしまった。

彼女から視線が外せない。

羞恥に頬を赤らめ、服を着る彼女。

潤んだ瞳が真っ直ぐとこちらを見つめている。

「あ、あの…」

惚けていると女が心配そうに覗き込んだ。

「えっ…あっ、な、なにか?」

不意を突かれ、咄嗟に取り繕う。

「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あっ、あぁ、名前ね…長倉正輝(ながくらまさき)です」

「正輝さんですね。私は鳩咲友花(はとざきともか)と申します」

「あっ、はい…」

さて、そろそろ表に出てもいい頃だろう。

いつまでもここに長居するわけにはいかない。

これから夜が深くなるにつれて寒さは一層増し、彼女の格好では凍え死ぬ可能性だってある。

「友花さん…ここを移動します。僕についてきてください」

「はい」

一刻も早く暖を取れるところに隠れないと。

二人は表に人がいないのを確認し、走り出した。

家と家の狭い路地を走り抜けて行く。

「あの…どこへいくのですか?」

走り出してしばらく、無言で後ろをついてきていた彼女が声を掛けてきた。

「ん?あぁ、この先に納屋がある。いったんそこで身を隠そう」

「分かりました」

ただ…納屋までの道のりで気掛かりが一つある。

一度広い街道に出て、川を渡らなければならない。

その川を渡れば納屋まですぐなのだが、野盗がいる確率が高い。

無事に辿り着ければいいのだが…

そうして二人は街道を駆けていった。




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