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恋時雨の降るとき
第八話 「恋時雨」
その日は千里の葬式だった。

お経を聞きながら千里に黙祷を捧げる。

明るい笑顔、元気な姿、一緒に勉強したこと、恋に悩んだこと、一つ一つを思い返した。

どれも大切な思い出。

大切な親友。

だけど、もう…二度と会うことは出来ない。

涙が頬を伝って落ちる。

「うぅ…千里…」

思い返すほど胸が痛み、涙が溢れてくる。

悲しみに包まれた葬式は何事もなく進んでいき、終わった。

式場を後にし、帰宅する途中のことだった。

「…千里ちゃん、自殺だったらしいわよ」

「ええ、そうらしいわね。それに最近、恋愛事で悩んでたそうよ」

「辛くなって自殺したんじゃないの?」

「噂じゃ彼氏も自殺したって聞いたわ」

見知らぬおばさんたちが立ち話しをしているのを耳にした。

否応なしに思い出される出来事に椿は表情を落とした。

あの時、もっと親身になって相談に乗ってあげてたら千里は死ななかったのだろうか。

人はいつも後になって気づく。

失って初めて、大切さを知る。

けれどもう遅いのだ。

失った者は二度と還らないのだから。

だからこそこんなにも悔やみ、苦しむのだ。

椿は早く通り過ぎようと歩みを強めた。

「最近、雨が多いし恋時雨を思い出すわね」

「あぁ…知ってるわ、昔の言い伝えでしょ。雨憑之神だっけ?神隠しなんて今の時代あるわけないじゃない」

「あはは…そうね、でも私は好きだな。なんかロマンチックじゃない?」

椿はふと足を止めた。

―――えっ?

いま…なんて…?

聞き間違いでなければ『恋時雨』と聞こえた。

椿は声をかけようと振り返った。

「あっ!もうこんな時間。夕飯の支度しなくちゃ」

「ホントだ。早く買い物行かなくちゃ…今日の夕飯何にしようかしら」

おばさんたちは慌しく去っていった。

「あ…行っちゃった…」

やっぱり恋時雨に何か隠されている。

恋時雨と雨憑之神。

そして神隠し…

「おばあちゃんならきっと知ってるはず…」

椿は今、一歩を踏み出した。

次は我が身だということも知らず…




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あきゅろす。
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