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恋時雨の降るとき
第十一話 「神隠し」
それはこの地に伝わる言い伝え…

恋に悩んだ少女は彼の死に涙した。

涙の映し鏡のように雨が何日も降り続いていた。

そして…ある日、突然少女は虚ろな瞳とブツブツ小言を言いながら後を追うように死んでいった。

死因は水死。

だが、それは少女だけではない。

彼もまた水死だったのだ。

毎年この季節になると、たびたび同じような出来事が起きた。

死ぬ直前に通りすがった人はまるで何かに誘われてるようだったと言っていた。

やがて街で噂になり、人々はこう呼んだ。

『恋時雨が降るとき、雨憑之神が死を誘いにやってくる』

おばちゃんは説明し終えたあと、一息ついてお茶を啜った。

「ぜんぶ…全部同じだ…千里も泣いていた。そのあと・・・」

思い返すと涙が溢れてくる。

「神隠しとは…神様も酷なことをするもんさねぇ」

自殺の正体は古くから続く神隠しだった。

現実にはありえない非科学的なもの。

椿はやりきれない気持ちでいっぱいなった。

しかし、同時に一つのことに思い当たる。

「おばあちゃん。その神隠し、逃れる方法はあるの?」

ここ数年、千里のような自殺をした人の噂を聞かない。

つまり神隠しはなかったということだ。

「もちろんあるよ。聞きたいかい?」

さも当然のようにおばあちゃんは言った。

もっと早く知っていれば千里は死なないで済んだかもしれなかったのに…

過ぎたことだが、椿は悔やんだ。

「それはね…」

椿は唾を飲み込んだ。

緊迫した空気が奔る。

おばあちゃんの口がゆっくりと開かれ、声を発しようとした時…

電話が鳴った。

椿は突然の音に驚いた。

緊張の糸が急に切れ、心臓が激しく鼓動している。

「おやおや…よっこらしょ」

おばあちゃんは立ち上がり、居間を出て行った。

一人残された椿は姿勢を崩し、大きく深呼吸した。

「はぁ…びっくりした…」

「椿〜あんたに電話だよ〜!お母さんから!」

おばあちゃんが居間の向こうにある電話機から声を上げた。

いったいなんだろう?

おばあちゃんから受話器を受け取り、耳に当てる。

「もしもし、どうしたの?」

『あぁ椿、大変よ!!急いで帰ってきて!』

電話越しに聞こえるお母さんの声は取り乱したようだった。

「えっ?なんで?落ち着いてお母さん。どうかしたの?」

『今ね、電話が掛かってきたんだけど悟史君が自殺したって…』

え・・・?

…いま…なん…て…?

うまく聞き取れなかった。

それとも空耳だったのか。

『だから、早く帰ってきてほしいのよ!』

「う…うそ…」

本当はちゃんと聞こえていた。

でも、信じたくなかったから…

だって…悟史が死ぬわけないじゃない。

昨日夕陽を見ながらキスをされて…

笑っていたのに…

椿は受話器から手を離し、駆け出した。

背でおばあちゃんが何か言っていたが、うまく聞き取れなかった。




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