SBA
ホワイトデーよりも!!
3月14日。世間ではホワイトデーというイベントのある日だが、彼女にはそれよりも重大な事が判明する日であった。
緑溢れるのどかなグリンルワート村で名の知れた、とある商家の屋敷の前。
「まだかなぁ……」
少女は実家のポスト前でもう1時間も彼を待ち続けていた。
何度も時計を見てはそわそわと落ち着かず、ポストの周りを右へ左へ行き来する。
そんな時、ヒュンッとポストの前に誰かが降り立った。
少女はそちらへパッと振り向き、郵便屋さんである彼の元に駆け寄る。
「郵便屋さんっ!!SBAからの手紙ある?」
「ん?あぁ、2通あるよ。ほら、どうぞ。」
郵便屋さんは黒い鞄から2通の白い手紙を少女に手渡す。
「ありがとう!!」
「2人共受かってるといいね。じゃあ僕は次の配達があるから、またね!」
「うん!!お仕事頑張ってな!!」
次の配達場所へ瞬間移動した郵便屋さんを見送ると、少女はすぐさま自分宛の手紙を開ける。
すると何も書かれていない手紙の上に小さな魔法人形(ドール)が、ヴンッと映し出された。
―パスワードト受験番号ヲ答エテクダサイ―
「パスワードは光輝の魔導師、受験番号はS183E2450。」
―認証確認、ロックヲ解除シマス―
番号を確認し、本人と認証したドールは少女に深々とお辞儀をするとスゥッと消えた。
その直後、パタパタパタパタ…と文字が真っ白だった手紙にまるでパズルのように置かれていく。
少女は手紙にかじりつくように文章を読んでいく。
―サエ・エトワール様
貴女は今年度シーバティウスアカデミー推薦入学試験の結果、『合格』と認定されました。
入学手続き、入学式につきましては…
やっったぁあああああああ!!!!!!!」
サエは合格通知をにぎりしめ、中庭を突っ切り屋敷へと急ぐ。
ダァンッと勢いよく両開きの扉を開き歓喜の声を上げた。
「お兄ちゃんお母さんお父さん!!私合格したぁあああっ!!!!」
「サァアアアアエェエエエエッ!!!!!!!お兄ちゃんは嬉しいぞ可愛いな全くぅ〜!!!!」
「もぎゃっ!!」
ガバッと兄のカズヒルムに抱きしめられ、頭をこれでもかという程撫でられる。
その横から神妙な面持ちで弟のタケシミアが自分宛の手紙をサエの手から引き抜く。
「あらサエちゃん凄いじゃない!!今日はお祝いしなくちゃねぇ〜!」
母のハスティマがふわふわした髪をたなびかせ、ニコニコと笑う。
「よかったなぁ〜!サエちゃんも今年からはお兄ちゃんと同じ学校だなぁ〜!!
ところで、ミア君の結果はどうだったんだい?」
父のレンドリムが合格したサエを祝い、手紙とにらめっこしているタケシミアに優しく語りかける。
「ごっ…ごごごごごっ!合格しました父さんっ!!!!」
タケシミアは嬉し涙を流しながらレンドリムにへばり付く。
「そうかそうか…よかったなぁミア君。皆でSBAに入れたらいいなって言ってたしなぁ〜!うん、二人とも頑張った!!
よっしゃ!今日は宴会だ!!!」
そしてエトワール商家で夜まで続く大宴会が始まった。
ではエトワール一家がバカ騒ぎしている間に色々と説明しておこう。
SBA、正式名を《シー・バティウス・アカデミー》。
世界最大級の全寮制魔法学院である。SBAのモットーは年齢・家柄・人種を問わず、魔法や戦闘などで平均値より秀でた能力を持つ生徒を集め、
4年に渡り更なる能力向上を目標に厳しく楽しく育成する事。
この方針に基づき、学院は生徒の能力と魔力順にS・A・B・C・Dの5クラスに振り分けている。
生徒達は個々の能力向上をクラスごとに競い、学院卒業を目指すのだ。
受験料や授業料が生徒の能力や金銭面次第で免除してしまう太っ腹さ故に、年々SBAを受験する生徒は増加している。
しかしSBAの試験は非常に変わっている為、合格者は受験者の10%にも満たないという。
そんな中でサエとタケシミアが合格したのは『推薦枠』のおかげである。
推薦枠とは現在、学院のSクラスに属する生徒がいる場合に推薦状が届き、推薦受験可能となる受験方法の一つだ。
彼らの兄、カズヒルムが現在学院のSクラスに席をおいている為、二人に推薦状が届いたのだ。
―そしてその翌日。
エトワール一家は朝早くからSBAに見事合格したサエとタケシミアの入学準備に取り掛かかっていた。
「サエちゃんもミアちゃんもついにSBAへ入学なのねぇ〜、嬉しいわねぇ〜あなた!」
「そうだね、ハスティマ。だけど全寮制だから2人とも居なくなっちゃうんだと思うと寂しいなぁ〜。
それにサエちゃんに『彼氏出来てん〜!』とか言われたら私泣いちゃうよ〜!!」
「何言ってんのお父さん。」
「大丈夫さ父さん!サエに悪い虫がつかないよう、私が守るさ!!」
「そうだよ父さん!僕も居るんだから!!」
「いや二人も何言ってんの!!彼氏とか出来ひんから!!」
「あらぁ〜サエちゃんは可愛いもの。彼氏の二人や三人、すぐにできちゃうわよぅ〜。」
「一人や二人じゃなくて二人や三人て!!お母さん言葉おかしいで!!」
「いいかいサエちゃん!お父さんが許せるのは年下と同い年だからね!年上は認めないぞ!」
「何の話やっ!?」
「嫌だぁああ!!!サエが嫁なんて可愛いすぎて嫌だぁああ!!!!!」
「お兄ちゃん!!?」
「兄さん!想像しちゃダメだよ!現実になっちゃうかもだよ!!」
本当にこの家族はサエに対し、過保護過ぎて困る。
「そうだな…!!よし、考えない為にも入学準備をしようか父さん!母さん!」
「それは名案だ!私は入学手続き書類を書きにいこう。」
「あら、じゃあわたしは〜「ハスティマは何もしなくて大丈夫だよ!!君は二人が無事に入学出来るようにお祈りしておくれ!!」
何かしようと立ち上がるハスティマを直ぐさまレンドリムが止める。
彼女が動くと必ず、必ず何かハプニングが起こってしまう。
掃除の最中に物が壊れるし、書類仕事で破る・紛失・水浸しは当たり前、料理をしようとすれば決まって爆発する。
もはや呪われているかのようなのだが、本人は極度の天然ボケ故に気付く訳もなく…家族全員で阻止するしか無いのだ。
「そうね、そうするわ〜。」
今回はあっさり同意してくれたハスティマが自室に戻るのを見て、レンドリム達はホッと胸を撫で下ろす。
「お兄ちゃん、君は先輩として兄として二人の荷造りを手伝ってやんなさい。」
「わかったよ父さん。さぁ二人とも、2階に行こうか!」
変な歌を口ずさんで書斎へ向かう父を横目に、カズヒルムの後に続いてサエ達は2階への階段を上る。
「お兄ちゃん!荷造りって何するん?」
「姉さん、SBAからの通知ちゃんと呼んだ?明日の夕刻までに同封された魔法シールを使って荷造りをしないと駄目なんだよ。」
「明日ぁ!?急やねんなぁ〜。それにこのシール何?」
弟の言葉で漸く封筒の中にあったシールに気付き、その束を不思議そうに見つめる。
「あー、それは『トランスシール』って言う魔法アイテムさ。」
「トランスシール?」
「あ!本で読んだ事あるよ。確か…転送魔法が組み込まれてるシールで、名前を書いたら指定場所に転送するんだよね?」
「そ、普通のヤツはね。新入生用配布シールは場所も時間も指定で、名前を書かなくていいようになってるのさ。
だからサエ達は自分が必要な物を箱に詰めて、シールを貼ればいいだけなんだ。」
確かに記入欄は無く、代わりにSBAの紋章が金縁の中に描かれている。
「はい!お兄ちゃん!」
「ん、何ですかサエちゃん!」
カズヒルムはピシッと手を挙げて質問するサエを当てた。
「タンスとかクローゼットとかの引き出しの中身も転送されんの?」
「あぁ、中身も転送するよ。転送する物に置いてあったり、引っ掛けてる物も転送されるよ。」
「へ〜!便利やねんなぁ!早速貼ってこよ〜っと!!」
新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃぎ、サエは上機嫌で部屋に入った。
私の妹ホント可愛いとニヤついていると、くいっと服の袖を引っ張られる。
「ねぇ兄さん、学院で絶対必要なのは何?」
こてんと首を傾げながら質問してくるタケシミアは、時折サエよりも女の子らしい。
どちらかといえば母似なので、可愛い顔立ちをしているから尚更だ。
ちなみにカズヒルムは奇抜だった祖父似である。
しかも身長の加減で上目使いになる所など、狙っているとしか考えられない。弟可愛い。
「ん〜?必要な物は授業によるけどなぁ〜…一番使ってるのは薬品かな?
購買で買うと結構な額になるから皆持って来るか、採取しに行ってるな〜。」
「薬品かー。あ、生活用品ってどのくらいいる?」
「生活用品〜?…ミア君、自分がいると思ったのを全部箱に詰めてシール貼んなさい。その方が確実だから。」
「わ、わかったよ兄さん。」
まだ少し不安げだったが、タケシミアはシール片手に自室へ戻って行った。
「んー…タケシミアは心配性だなぁ〜。」
未だに部屋でうろたえるタケシミアの姿は小動物のようで、弟も可愛いものだと和んでいた時だった。
ドンガラガッシャァアアアン!!!!!!
「うわぁああっ!タルがぁああっ!!」
大きな物音と共にサエの部屋から樽やら鍋やらがゴロゴロと、とめどなく転がり落ちて来ている。
「………サエは落ち着きが無いなぁ〜…二人とも心配だよ、兄さんは。」
呆れながらも、これから始まる3兄弟の学院生活を妄想してはハァハァしてしまうカズヒルム兄さんであった。
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