炭酸 (完結)
方言担当と眉毛担当

蝉がそこら中で愛を叫ぶ夏。
期末テストで死にかかっていた生徒達は、明日から待ち望んだ夏休みを迎える。

「あー…涼し〜。当分俺の家な、ここ。」

終業式を終えた勝政達は自宅へ帰らず、冷房が効く生徒会室でのんびりと涼んでいた。

「俺も会議行きたないわ〜。あそこな、めっちゃ暑いねんで。」

大阪弁でそう言ったのは生徒会の担当教諭、荒井 嵐(あらい あらし)。

彼の行動は常に教師とは思えないようなものばかりで、
ある時は受け持っている国語の授業を気分で自習にし、
またある時は生徒と一緒になって廊下でブレイクダンス。
故に荒井は職員の間で教師ではなく生徒、それも問題児扱いされている。

問題だらけの彼だが、楽天的で陽気な性格のせいか、
彼の受け持つ生徒全員が学年平均以上の得点を記録する為に、
学校側が荒井の処分をどんどん先延ばしにしているのは有名な話だ。

「何言ってんだよ!暑いからいいんじゃないか!プールとか最高だよ、夏休み最高!」

「お前なんでそんなに元気なんだよ。」

「五ツ矢サイダー飲んだからかなっ!」

「あー、めっちゃ爽やかやわ。高須君近くにおると更に涼しい気ぃするわぁ〜。」

「こら!君達!さっさと帰んなさい!そして何でアンタが混ざってんのよ駄目教師っ!」

金切り声で注意しながらズカズカと生徒会室に乗り込んで来た女教師、
黒沢 真由子(くろさわ まゆこ)は荒井と同期の、オシャレに敏感な香水大好き数学教師である。
ちなみに今日の香りはビターオレンジだ。

「うーわ、まゆたんや。」

「まゆたん?」
「あ、真由子だからか。」

「ちゃうちゃう、眉毛ごっつう太ぉ描いてるやろ。眉毛担当やからまゆたん。」

「死ねよ荒井ー。」

少々眉毛を太く描いてしまう彼女は剣道の有段者である。
まゆたんの代名詞と生徒に恐れられる愛用の竹刀、『黒砂糖』が荒井に向けられる。

「おわっ!!それは堪忍してぇなまゆたん!」

「まゆたん言うな。そんでから君達は早く帰りなさい!生徒会室で涼むな!」

竹刀を手に、荒井の身柄を確保したまゆたんは、顔だけを聡達に向けて帰宅を促す。

「りょーかいっす、まゆたん。」
「じゃあね〜!まゆたん!」


「だからまゆたん言うな!」

荒井を連行して生徒会室から出るまゆたんの怒声が廊下中に響き渡ったが、室内からは彼らの笑い声が聞こえるだけ。

「なんでアイツらだけ夏休みやねーん!あー、ったく!俺ら教師はまだ会議があるっちゅーのにぃ〜。」

「言えた義理じゃないでしょ、サボろうとしてた癖に。」

「まゆたんセンセは固いわぁ〜。息抜きは必要やで〜!」

「アンタは息抜き過ぎなんですー。ほら、行きますよ職員会議!」

荒井は「あー、かったりぃー。」と怠そうにぼやいて階段を下りていった。

所変わって生徒会室。

「さぁて、まゆたんに荒井持ってかれちゃったし…行くかァ〜。」

「そうだな〜。あ、マサ!一緒に帰らないかい?」

「おう!帰ろ帰ろ…んあ?」

生徒会室を出ようとした時、勝政の個性的なストラップが付いた携帯が着信音を奏でた。

勝政はペコッと携帯を開き、聡に苦笑いして通話ボタンを押す。

「…なんだよ。は?今?いや、ちょっ…えー。
わぁった!わぁったって!!行くよ!行けばいんだろ!おう、ああ。うん…うん、じゃ後でな。」

通話中に表情をころころ変えていた勝政は、面倒臭そうに携帯の画面を見て溜め息を吐く。

「どうしたんだ?」

「美和子だよ美和子!今から教室来いとか言いやがった!」

あんにゃろー、とぶつくさ言いながらも無意識下の内で美和子を優先する勝政に聡は苦笑する。

「榊原なら仕方ないな!んじゃ一人で帰るかぁ〜。」

「あ!ちょい待ち!美和子がさ、塚本と帰ってやって欲しいってさ!」

「塚本?」

「昇降口に居るってよ!」

「オーケー!じゃあな!」

階段を下りていた二人はそのまま別れを告げ、勝政は教室へ、聡は昇降口を目指した。

昇降口まで着くと、既に環が硝子扉の所にもたれ掛かり、ぼんやりとグラウンドを見つめていた。



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あきゅろす。
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