炭酸 (完結)
会議よりパケモン

「うわああ、すっかり忘れてたよ生徒会っ!!」

廊下を全力で走り抜ける少年、高須 聡(たかす さとる)は3階にある生徒会室の扉を勢いよく開いた。

「ごめん!忘れてた!!」

「だーいじょうぶよ、高須君。あのアホ会長が今だに来てないから。」

生徒会室のソファーに座っていた生徒会副会長、榊原 美和子(さかきばら みわこ)がケラケラと笑う。

「あ、よかった!物凄い勢いで走って来たから、汗がさ〜!!」

聡は制服のシャツをバタバタさせながらクーラーのリモコンを弄る。

「さとるちゃん、コレあげるよ〜!」

のんびりした口調で聡にアイスを手渡すのは、生徒会外務の七瀬 桃華(ななせ ももか)。

「サンキュー七瀬!あ、そういや薫と塚本は?」

「松本君と環ならコンビニ行ったよ。環の紅茶を切らしちゃったんだって。」

「またかい?!3日前に買ったばっかりだったろ?塚本は紅茶飲みすぎだよ!!」

「飲みすぎで悪かったわね。でも高須君もサイダー飲みすぎだと思うわ。」

「うわあっ!塚本!」

紅茶好きな生徒会書記の塚本 環(つかもと たまき)。冷静で周りや他人の変化にいち早く気付く大人っぽい女子だ。

「五ツ矢サイダーの爽快感が好きなのは分かるけど、カロリーも気にしなさいよね。」

「炭酸ってカロリー高いですからね。僕も気をつけなくちゃ。」

二人はコンビニで買ってきた品々を生徒会室の冷蔵庫に入れ終わると、ソファーに腰かけた。

「薫はそれ以上痩せてどうするんだよ。榊原より女子力あるじゃないか!」

生徒会会計を務めている乙女趣味男子、松本 薫(まつもと かおる)。桃華の幼なじみであり、彼女を過保護なまでに心配する敬語少年だ。

「あ〜ら高須君、それどうゆう意味かしら?」

「おわっ!違うって榊原!榊原は『女子』って感じじゃなくて、『姐御』みたいな!可愛いよりカッコイイ!ってのが似合う感じで憧れの対象的な!」

美和子お得意の上段回し蹴りが発動しそうなのを見て、聡は慌てて言葉を付け加える。

「そ、そうですね…。榊原先輩は男女問わず頼れる存在ですからね。」

「わたし、みわちゃん先輩好きよ。困ってたら助けてくれるし、悩みとか聞いてくれるもん。」

三人とも本心を言ったのだが、聡はどうも言い方が悪かったようだ。

「桃ちゃんと松本君は可愛いからいいけど、高須君は私を男っぽいと言っているようにしか聞こえないわ。
よって!今日の戸締まりと校内見回り当番は高須君と大遅刻してる馬鹿に決定!」

「が、頑張って下さい高須先輩。」

「えぇ〜っ!!!俺、帰ってブラックーのレベル上げて四天王倒しに行かないとダメなんだ!!マサに先越される!」

明後日には通信対戦があるのだ。その為に何度、先生から隠れて机の下でレベル上げをしてきた事か。

「パケモンより勉強しなさいよ高須君。まだ6月だからってナメてたら、あっという間に期末テストよ?」

「いいんだ!最悪、前日に徹夜するから!」

「…すぐ流行に流されるんだから。」

「ごっめん遅れた〜!!!」

アッハッハと豪快な笑いを飛ばしながら入って来たのは我らが生徒会長、青山 勝政(あおやま かつまさ)だ。

「遅いよマサ!で、今レベルどこまでいった!?」

「ふふふ、今から四天王だぜ〜!」

勝政は自慢げに2DSのゲーム画面を聡に見せる。

「マジで!?ちょ、見たい!見せて!」

「くぉらっ!!そこの馬鹿二人!!!」

「うわっと!何だよ美和子ー、俺らこれから大事なトコなんだぜ〜?空気読めよ〜。」

美和子の一喝で勝政は大事な2DSを落としそうになる。

「お前がな。」

「美和の言う通りよ。何しに皆が集まったのか考えて欲しいわ。」

「ま、まあまあ…先輩方。とりあえず、その…生徒会会議しませんか?」

「生徒会会議だから、みんなにお茶いれてあげるね?いつものでいいかなあ〜?」

桃華はそう言うと、パタパタと生徒会室備え付けの給湯室へ走る。

「ほら!後輩二人に気を遣わせてるじゃないの!2DSしまって会議するわよ!会長でしょアンタ!」

美和子はパッと勝政の2DSを取り上げ、勝政の手首に軽く小手捻りを仕掛けた。

「イタタタタタ!!!!美和子いてぇ!!やるっ!やるって!聡、会議さっさと終わらせてパケモンやろうな!」

「オーケー!それで?今日は何の会議なんだい?」

桃華が皆の席の前に一つずつお茶を置き終えて着席した時、やっと二つが会議の席に座った。

「今日は…『体育祭のテーマ』が議題。」

「ああ!今年は9月下旬予定だもんな体育祭!」

「11月には文化祭もあるし、早く決めないと。」

「テーマは目安箱で全校生徒から募ったから、その中から決めるわよ。桃ちゃん、読み上げてくれる?」

美和子は回収してきた目安箱を桃華に手渡した。

「はい〜。たまちゃん先輩、書記お願いします〜。」

勿論、といった感じで環は書記のノートを開き、桃華が読み上げる回答を素早く書いていく。

「へえ〜!皆結構考えてくれてんだな!」

「中にはふざけている物もあるけどね。」

もはやテーマではなく、『ももちゃーん!!』や『マサ!今度遊びに行こうぜ!』、『榊原マジパネェ鬼畜www』など生徒会メンバーへのコメントまで入っていた。

「これがいいよ!『爽快』!!」

「爽やかなスポーツの秋だからって書いてあるわね。」

「どーせ高須君はサイダーを連想したんでしょ。」

「お!そうなんだよ!すごいな塚本!」

聡はニコッと環に笑いかけるが、ふいっと目を逸らされてしまった。

「よぅし!今年の体育祭テーマは『爽快』で大決定!!この際だから五ツ矢サイダー一気飲みリレーでもするか!」

「ちょっと待ちなさいよ!他の意見も聞きなさい!皆はどう思う?別のテーマが良かったら言ってね!」

いつも自分一人で突っ走る勝政を美和子が良い具合にまとめあげ、皆に意見を出させる。

「私は『爽快』でいいです。他のテーマ案はありきたりだし。」
「私もねー、サイダー一気飲みリレー良いと思うよ〜。」

「桃!リレーじゃないよテーマだよ!あ、僕もテーマ賛成です。」

今年はふざけた回答とありきたりな物ばかりだったからか、すんなりとテーマが決まった。


「オッケー、それじゃ『爽快』で資料作るわ。」

「なあなあ!今日は会議これで終わりか?俺、パケモンしてぇよー!!」

「環、今日中に決める議題他にある?」

美和子の言葉に環は先生から渡された資料などを確認して、残っている議題が無いか確かめる。

「ええと…うん、無いよ。」

「よっしゃ!!帰ろうぜ!」

「こら、そこの二人〜!アンタ達は戸締まりしてから帰んのよ!!」

「勘弁してくれよ美和子〜!聡と帰りにパケモンすんだよ〜!!」

勝政は2DSを手にして美和子に何回も頭を下げる。

「わぁかったから、騒ぐな!昇降口で環と待っててあげるから!!」

「私も!?」

「おっしゃ!そうと決まれば早速校内見回りだぜ!!行くぞ聡っ!」

「あ、じゃあレベル上げ頼むよ塚本。」

「ちょ、高須君!」

「行っちゃったね〜。」

聡は環に2DSを渡して、勝政と校内見回りというより徒競走に近いそれに繰り出した。

「先輩方、お先に失礼します。」

「バイバイみわちゃん先輩、たまちゃん先輩〜!」

「うん、じゃあまたね。」

「また明日。」

可愛いらしく手を振る桃華と彼女の手を引く薫を見送り、二人も昇降口まで降りる。

「なぁんかさ、あの二人付き合えばいいのにね。」

「桃ちゃんは天然だから、仕方ないよ。松本君が告白しないと気付かないだろうし。」

「だよね〜…。」

薫が桃華に好意を抱いているのは周知の事だが、桃華の天然ぶりは凄すぎる。
全校生徒だけでなく、スーパーのおばちゃんまでもが知っている程だ。

「美和、青山君に告白しないの?」

「ぬあっ!!?な、ななななんで知ってんの!?」

「見てたらわかるよ〜。美和、分かりやすいもの。」

美和子の話に乗りながら環は覚束ない手つきで野生のパケモンを相手にしている。

「そっ、そうかなぁ…あ!!じゃあ勝政にもバレてる?!」

「それは無い無い。青山君は言わないと分からない人だから。美和が一番よく知ってるでしょ。
あ、せんとうふのうって出た。何これ。わかんない。」

手持ちパケモンのステータス画面が真っ赤だ。
しかも勝手に勝負を仕掛けてきた、塾帰りの女の子に負けてしまったようだ。

「環はホント機械下手よねぇ〜。ほら、貸して。パケモンセンター行かないと。」

その後、環は美和子に手伝ってもらいながら何とかブラックーのレベルを上げたのだった。



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あきゅろす。
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