炭酸 (完結)
青空花火

乙女の決意から早2週間。やっと秋らしくなって来た本日は、体育祭である。

「いよっしゃあああ!!!行くぞお前らぁあああっ!!赤組優勝ぉおおおお!!!」

「「赤組優勝ぉおお!!」」

「みんなで頑張ろうなっ!白組ー!えいえいおー!!」

「「えいえいおー!」」

暑苦しい赤組と爽やかな白組の対照的な団結により、火蓋は切って落とされた。

ちなみに生徒会メンバーはこのような組分け。
赤組熱血応援団長、青山勝政を筆頭に榊原美和子と松本薫。
白組爽快応援団長、高須聡の後につく塚本環と七瀬桃華だ。

「なんで環と一緒じゃないのよー!」

「仕方ないわよ美和、違う組だけど頑張りましょ?いいじゃない。青山君とは同じなんだもの。」

「う、うん…」

応援団と生徒会で駆けずり回っている彼の事を話せば、美和子の頬は赤く染まる。

一言言っておこう。勝政と美和子はまだ付き合っていない。

なんとももどかしい話だが、美和子はきちんと勝政に謝罪をした。
その時に返事を貰えると思っていたのだが、勝政は返さなかったらしい。
美和子を好いているのは確実なのに返事をしない所を見ると、勝政には何か作戦があるようだ。

「多分、体育祭の最中に告白するんじゃないかな?青山君ってイベントとかサプライズとか大好きだもの。」

「イヤよそんなの!絶対イヤ!恥ずかしいじゃない!!」

「あーはいはい。」

「軽くあしらわないでよ!」

「だってこれがじきに惚気へ進化すると考えると、先が思いやられるわ〜。」

絶対、逐一報告しに来るに違いない。そんな事を考えつつ、環は今行われている玉入れの様子をぼんやりと眺める。

「なら環は高須君とくっつけばいいじゃない!」

「っ!?な、なななんで彼が出てくるの?!」

「え?違うの?」

「か、関係無いから…。ほらほら!次の種目に青山君でるみたいよ!」

玉入れが終わりに近づき、次の借り物競争の準備が始まる。
集められた出場者の中で身体をほぐしている勝政を見つけた。
こちらに気付いた勝政が大袈裟に両手をぶんぶん降る。

「みーわこー!!!見とけよー!!」

美和子へ叫ぶ勝政の大声のお陰で周囲の視線は二人にくぎづけだ。

「ぬあっ!!あんの馬鹿っ…手なんか振らないでよね!恥ずかしいったらないわ!」

「これで付き合ってないなんて…」

「うう、ううるさいっ!あいつはホント馬鹿なんだからっ!!」

美和子の甲高い声と同時にスタートの銃声が辺りに響いた。
一斉に走り出す生徒達。
競技は借り物競争、ゆえに皆帽子やら眼鏡やら人やらを四方八方から借りて走る。

第一レース第二レースと順調に終わり、とうとう最終レース、勝政の居る列の番だ。
一列に並ぶ5人を見て環は目を見開いた。

「ね、ねえ美和…なんで彼がいるの?出ないはずじゃ…」

「欠場者が出ちゃったから補欠で選ばれたのよ。知らなかった?」

知るはずが無い。始業式の日から何だか話しにくくなって、気まずくて目を向けないようにしていたのだから。

そうこうしている内に最終レースが始まってしまった。

勝政達、走者は借り物を指示された紙目掛けて走る走る。
一番最初に紙を手にしたのは聡だった。本来なら直ぐさま借りる為に奔走するのだが、彼は動かない。

「どうかしたのかしら?」

「借り物に悩むものなんて無いと思うけど…。
まさか、あの馬鹿がくだんないのと入れ替えたんじゃないでしょうね!」

彼が悩む間に他の走者達が紙の元に辿り着いてしまった。
勝政も自分のコースの紙を拾うと、一目散にこちらへ向かって来た。

「塚本!コイツ借りるぜ!」

「え!?あ、ええっ!?」

勝政に無理矢理腕を引っ張られて走り出す。

「行ってらっしゃい美和〜。」

今だに状況が把握出来ない美和子を笑顔で送り出してやれば、すぐに反論が返ってくる。

「何手ぇ振ってんの!たまきっ!!ちょ、勝政早い!!」

他の走者がまだ借り物を探している中、勝政は美和子を引き連れてゴールを目指す。
そういえば聡の姿が見当たらない。一体どこに何を借りに行ったのだろう。

そして、勝政と美和子が見事ぶっちぎりの一位。他の走者も後に続き、最後に聡がゴールした。

その時事件は起こった。

「みんなー!ちゅうもぉおく!!!」

放送部のマイクを奪った勝政が唖然としている美和子に向き合う。
なんだなんだと周囲の生徒や保護者が二人に注目し、呆れ顔の先生達は止める気力も無いようだ。

「ちょっと!何考えてんのよ馬鹿!迷惑でしょ!体育祭ジャックしないでよね!」

はっと我に返った美和子が勝政を叱り付け、マイクを奪い取ろうとした…が。

「榊原美和子!!」

「は、はい!」

美和子の足が動く前に、勝政が彼女の名前を叫んだ。
不意を突かれた美和子は先生に呼ばれた時のように返事をしてしまう。
その様子を見た勝政はにんまりと笑い、大きく息を吸い込む。

「大好きだァアアアア!!!!」

「「!!?」」

言われた本人は勿論、その場に居た全員の目が点になった。
まさか体育祭ジャックで告白するとは。

「俺に一生付き合え!!美和子!!」

「な、な…何言ってんの馬鹿!!」

「うおっ!?」

顔を真っ赤にした美和子が勝政に抱き着く。

「一生付き合うのはアンタなんだから!!」

勝政が持っていたマイクを通じて美和子の返事が運動場中に響き渡る。
その瞬間に黙していた生徒達が囃し立てるように騒ぎ始め、保護者や先生は若さを痛感した。

今更ながら恥ずかしくなり、勝政の胸の中でカチコチに固まる美和子に勝政が耳打ちする。

「みーわこ。待たせてごめんな?」

「…馬鹿、恥ずかしい。」

「いいじゃねえか。公認カップルでイチャイチャしたかったんだ。」

「……意味わかんない。」

「美和子、大好きだ!」

その瞬間、少し離れた場所から一つの花火が上がる。
よくよく見てみれば聡と花火師らしきおじさんがせっせと花火を準備している。

「ふふっ、そういう事ね。」

こうして、青空に咲いた大輪と沢山の拍手の中、学校初の公認カップルが誕生した。




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あきゅろす。
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