Sae's Bible
共に外へ
翌日の朝、サエはキムーア達の話し声で目が覚めた。
「おはよー…なに話してんの〜?」
「あらサエ、お早う。今キムーアと何処に向かうか決めていたのよ。」
「眠たいならばまだ寝ていても大丈夫ですよ。ミナルディ様が行き先を渋っていますから、当分の間は決まりません。」
「んー…今何時なん?」
「朝の5時だよ!」
まだ5時だというのにセー君が起きている。本音を言うと二度寝したい所だが、自分より小さい子が起きているのに…と思うと出来なかった。
「あーうー…うん、起きとこかな。なあなあ!次どこ行くのー!!!」
「だぁあああ!!やかましい!!耳元で大声を出すな!」
「あはは、ごめんって!」
サエは地図とにらめっこしているキムーアの隣に座って横から覗き込む。
「ミナルディ様、どう考えてもルースレイズ山脈を越えるしか無いですよ。それ以外に行路がありません。」
「うむ…ならばセントレード国を目指すか?」
ナーナリアの指す行路では軽く3週間はかかるだろう。せめて他の行路があれば、とキムーアは頭を悩ませる。
「なんでセントレードなん?キムーアはマーファクトに行きたいん?」
「ずぞぞぞぞぞっ!!もっちゃもっちゃずるるるるるるっ!!!!」
「朝っぱらから醜い物を食べないで頂戴アキルノア、そしてお黙りなさい。」
目の前で橙色と水色が混じった怪しい蕎麦を食べるアキルノアをジュリーが一撃で黙らせた。
「………。ああ、カロラ国の次にマーファクト国は事件が起こったからな。順に追って行けば何か見つかるだろ?」
「けど行かれへんねやろ?」
「ええそうです。なんせマーファクト国は此処から遠すぎますし、山越えですから。」
「だったらポートレイムに行けば?」
ミュー君とリホソルトが起きなくて暇なのか、セー君が話に割り込んで来た。
「ポートレイム?」
「オレの暁の扉を開けてあげるよ。ガルガロック鉱山を越えたらポートレイムだからさ。」
サエ達の地図には眠りの谷としか記載されていないので寝所の正確な位置が分からなかったが、セー君がバツ印をしてくれたおかげでハッキリした。
「どちらにせよ山越えね。」
「ま、まあガルガロック鉱山は坑道がありますからマシですよ。」
寝所がルースレイズ山脈の近辺だと思っていたキムーアは、『これじゃマーファクトなんて無理か〜』と言って諦めた。
「麗しい姫様に坑道なんかを歩かせるなんてぇええっ!!!!でもなんか楽しそうっ!」
「鉱山とか楽しそうやなあ!宝石とか見れるんかなあ!」
「おい、ピクニックじゃないんだからな。わかってんのかコイツらは…」
楽しそう楽しそうとはしゃぐサエとアキルノアを見て、キムーア達は苦笑する。
「それじゃあポートレイムに決定ですね。」
「オレ、ねーねとミュー起こしてくるよ。二人が一緒じゃなきゃ扉開けれないから。」
そう言ってセー君はトタトタと走ってリホソルトとミュー君を起こしに行った。
魔法で大きなタライを出したセー君が寝ている二人に容赦なく落とすという、なんともベターな起こし方だったが。
そうして、ようやく目が覚めたリホソルトをサエ達はミュー君セー君の案内で暁の扉まで連れて来た。
「…ぽーと、れいむ?…に行くんだっけ?」
「ああ、頼むよ。暁の扉を開けてくれ。」
「…わかったよ。そのかわり、私を連れて行って。」
「はあっ!?んな事…」
リホソルトの急な要求にキムーアはびっくりして声を荒げるが、サエ達は全く気にせずに次々と意見を口にする。
「いいやん別に!私は賛成やなあ〜!そうすればいいのにって思ってたし!」
「いいじゃないキムーア。リホソルトは強いし、足手まといなんかならないわ。何より人が増えると楽しいものよ?」
「姫様は寛大ですなぁ〜!私も蕎麦を食べさせる相手が増えるんで賛成っすね。」
「僕も賛成なのだよー!ねーね、すごく行きたそうだった。寝所のお仕事は僕と兄ちゃんに任せるのだよー!!ね!兄ちゃん!」
「…ねーねがそうしたいならすればいい。だけど!気が済んだら絶対帰ってこいよ!!」
揚げ句の果てにミュー君とセー君まで賛同してしまい、一人反対のキムーアは決断を迫られる。
「皆好き勝手いいやがって……ナーナリア、お前はどう思う?」
「私はミナルディ様の決定に従うまでですよ。」
「あああ、わかったよ!お前も賛成なんだな!いいさリホソルト、連れて行ってやる!だから早くしろ!!」
ニヤリと笑うナーナリアから汲み取った感情からキムーアは折れるしか無かった。
「…ありがとう、ミナルディ。」
「その名で呼ぶな!キムーアだ!!」
「うん、キムーア。ふう………よし!いくよ二人とも。」
キムーアから承諾を得たリホソルトは、ミュー君セー君と共に暁の扉の前に並んだ。
「「「せーのっ!!!」」」
ゴゴゴゴゴゴ…………
リホソルト達の送る魔力で暁の扉がゆっくりと開かれ、約4000年ぶりに外の明るい光が寝所内へ差し込む。
早速サエ達が外へ足を踏み出そうとするとリホソルトが制止の声をかけた。
「あ、ちょっと待って!ミュリー!リット!」
「なあに、ねーね。」
「何かよう?」
「仕事…大変だし、何かあったら怖いから、私の力を半分あげる。」
リホソルトが二人の小さな頭に手を置いて力を込めると、多くの魔力が光となってリホソルトから二人へ移動した。
「ねーね…気をつけてね。」
「そうだよ、力が大幅に減ってるから一部の魔法が使えないんだし…」
「ありがとう、それから…ごめん。後はよろしくね。」
ジュリーに優しく肩を叩かれたリホソルトは涙を拭ってセー君達に背を向けた。
「お仕事!任せるなのだよー!!ミュー君と兄ちゃんはエライのだよー!」
「そのかわり絶対帰ってきてよっ!絶対なんだからなー!」
ミュー君とセー君は泣きそうになるのを堪えながら、旅立つリホソルトに手を振る。
「バイバイ!ミュー君!セー君!また会おうな〜!!」
「おねーちゃん達、気をつけてなのだよー!!」
「ねーねに怪我させるなよー!!!!」
サエの声に大きな声と動作で応えるセー君達を見て、皆は思わず笑顔になる。
「ふふっ、かわいらしい子たちね。」
「かわいらしい?変なガキだよ。」
後ろを振り向かずに小さく手をヒラヒラと振るキムーアの横顔はとても優しいものだった。
「…それは気に入ったという事ですね、ミナルディ様。」
ナーナリアはくすりと笑い、キムーアの後に続く。
やがてセー君達と寝所は見えなくなり、ガルガロック鉱山の坑道が見えてきた。
「あれ?あ、リホソルト!何してんの?」
先頭を歩くキムーアから随分後ろに居たリホソルトに気づいたサエは、彼女の元に駆け寄る。
「……外って…空って…青いんだ……」
目をキラキラさせて空を見るリホソルトに、サエは先程から気になっていた事を聞いてみる事にした。
「なあ…リホソルト、なんで外に行く気になったん?」
「…私の守るべきものを…世界を、見たくなった…それだけ。」
「そっか、沢山見れたらええな!!」
サエの満面の笑みにリホソルトも目を細めて優しく笑う。
「おい、置いてくぞ!!早く来い!サエ!リホソルト!」
「はーい!!!いこっ!」
「…うん。」
リホソルトは貴女に出会えて良かった、と小さく呟いた。
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