Sae's Bible
ある日の朝

その日の朝は、何か違う気がした。

昨日のように少し遅めの朝を迎えたサエは、身支度をして1階に降りた。

「おっはよ〜タケシミア!」

すでに1階に居たタケシミアに元気よく言った…だけど。

「……あ、姉さんおはよう。」

タケシミアの元気が無い。
家族だからわかる。

「タケシミア…どうかした?」

「え!?…別に、ちょっと今日は寝不足なだけだよ。」

「…それ、ほんま?」

「…う、うん!!本当だよ!」

ウソだ。
タケシミアは小さい頃から嘘をつく時、左手の甲で顔を隠す癖がある。
タケシミアはまるでサエから逃げるように2階へ上がってしまった。

「………なんやねんよ…。」

サエは一人、ぽつりと呟く。
その時地下室からカズヒルムが1階に上がって来た、片手に杖を持って。

「お兄ちゃん、おはよう。」

「……あぁ、サエおはよう。」

おかしい、こんな時間に起きてるなんて。
お兄ちゃんはいつも昼と夜が逆転してる機械オタクなのに。
しかも地下室は戦闘訓練とか危なくて2階でできない実験をする所。

「…地下室で…何してたん?」

「ん、あぁ〜…実験だよ実験。
ほら前に話しただろ?タイムマシンの作成だよ。」

カズヒルムもそそくさとサエから逃げるように2階へ行ってしまった。

お兄ちゃんとタケシミアが何か隠してる。
だけど、絶対言ってくれないんだろうな。
2人とも頑固やから。

「あ、もうお店開ける時間や!!
お兄ちゃぁん!!タケシミア〜!!開店時間やでぇ!!」

サエが2階に向かって大声を上げると、2階から2人が降りてきた。

「開店時間やでっ!!はよ準備しよ!」

「姉さん、今日はお店休むんだよ。」

「えっ!?お店休むん!?なんで!?」

サエが開店準備しようとするとタケシミアが有り得ない言葉を言った。
今まで一度もお店を休んだことはなかったのに。

「今日は国中の魔導師全員でもっと強力な魔法結界を張らないといけないから休むんだよ。」

「へぇ〜!!私も行きたい!!」

「サエはダメ。」

「なんでなん!?私も魔導師やのにっ!!」

「半人前でしょ姉さんは。」

「なにさ!!タケシミアだって魔力少ないやん!!」

「む…でも僕は魔導師じゃなくてシノビだからね。」

「とにかく、サエは今日1日外にでちゃダメだよ。タケシミアは私とおいで。」



カズヒルムはバタバタと出かける用意を始めた。

「なんでぇえっ!?タケシミアはなんで行ってもええの!?」

サエは不服そうにカズヒルムを睨む。

「タケシミアには国中の子供達や女性、お年寄りを避難所に案内してもらうんだよ。」

「そんなん私にだって出来るもん!!」

「姉さんはエデンでもまだ迷子になるじゃないか。」

そう言ってタケシミアもカズヒルム同様に出かける用意をし始めた。

「むー………私だって出来るのに…」

サエはむくれて、椅子にドスンと腰掛けた。

「一応家にも魔法結界を張るけど何かあったら困るから、サエは家を守って。な?」

カズヒルムに優しく頭を撫でられて、サエは「わかった。」と小さく頷いた。
丁度その頃、タケシミアの用意が終わったようだった。

「兄さん、もう行くの?」

「あぁ、時間だからね。じゃあサエ、行ってくるから店と家を頼むね。」

「うん、気をつけて。」

「大丈夫だよ。」

カズヒルムは玄関先に立てかけていた自分の杖 ヴォルテマを手に取った。
タケシミアはすでにブーツを履き、自分のポーチや武器を確認している。
サエも2人を見送る為に席を立って玄関先へ向かう。

「さてと、タケシミア忘れ物はないかい?
一応武器も持っているね?」

「うん、大丈夫。
この前兄さんに生成してもらった眞斬(まざん)と煌莉(こうり)も調子いいみたいだよ。」

眞斬と煌莉とはタケシミアが先日、カズヒルムに生成してもらった魔力をもった2本のクナイの事だ。

「じゃあ行こうか。
サエ、変なおじさんが来ても開けちゃダメだよ!
サエは可愛いからほんとに気をつけてよ!
夜には絶対帰るからね!」

「全く、兄さんてばシスコンなんだから。
姉さん、冷蔵庫の中に漬け物入ってるからね。あと、台所の火には気をつけてね!
晩御飯は僕が作るから勝手にいじらないでよ!」

そう言って2人は出て行ってしまった。
2人が出て行ったあと、家全体に魔力を感じた。
おそらくカズヒルムが強力な魔法結界を張ったのだろう。

「ふぅ…静かだなぁ…」

あの2人が店番以外で傍にいないなんて今回が初めてだ、とサエは心の中で呟く。
いつもサエの傍にはカズヒルムかタケシミアが必ず居た。

「最近は私が嫌やって言うからマシになったけど、ほんま2人ともシスコンやんなぁ…」

がらんとした静かな家の中。普段なら2階からカズヒルムの訳のわからない研究で起こる爆発音とか、タケシミアが家中を忙しそうにバタバタと駆け回っているのに。

「はぁっ…暇やなぁ〜…。」

ふと壁にかかった時計を見るともう昼過ぎだった。
時の流れは早いものだと、サエは改めて実感する。

「そういや最近ちゃんと寝れてなかったなぁ…。
夜更かしして魔法の練習ばっかしてたし…。
よし、今からちょっと横になろっと。」

サエは少し伸びをしてから2階の自室へ向かった。
パタパタと階段をのぼって自室に入り、ゴロンとベッドにねっころがる。

「ふぁああ……んーとりあえず2人が帰って来るまで寝よ。」

ちょっと肌寒いので毛布を引っ張り体にかけると、サエはすぐに眠ってしまった。
2人が帰れば起こしてくれる、そう思って…。



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