Sae's Bible
伝承

荷物と杖を置き、マント等の装備を解く。

「んー…さて!ジュリーの部屋行こっかな。えぇと…三女神の伝承と〜出来たら国の事とか色々教えて貰おー。
ふへへ、今の私なんか賢い感じやなぁ〜。」

ちょっと難しい事やシリアスな話に興味を持っただけで賢い気になるらしい、まだまだお子ちゃまなサエはジュリーの部屋へと足を進めた。

ジュリーが休んでいる客室はサエの与えられた部屋から数えて左に3つ目だ。

「ジュリー!!聞きに来たで〜!!!!!」

サエはジュリーの部屋の扉をノックする事無くガチャンと豪快に開けた。

「!…ああ、サエ。びっくりしてしまうから今度からはノックして頂戴ね。」

「ごめんごめん!んじゃどーぞ!!」

サエは客室にあったベッドに腰掛け、キラキラした瞳でジュリーの発言を待つ。
その様子を見たジュリーは一つ溜め息をつき、サエの隣に座る。

「…三女神の伝承ね。
この世界の名前、サエは知っているわよね?」

「うん、ティファトスやろ。それがどないしたん?」

「そう…ティファトス。この名前は三人の女神の名前から名付けられたの。
創造の女神アルティナ、永遠の女神ディーファ、そして英知の女神リィトス。彼女達が『創世の三女神』。」

「あ、ほんまや。ティファトスになる。じゃあその女神さん達がこの世界を創ったんか。」

アルティナのティ、ディーファのファ、リィトスのトスで『ティファトス』。サエはそれを確認し、なるほどーと頷く。

「伝承はここからよ。」

ジュリーのその言葉にサエは口元を締め、しっかりと耳を傾ける。
サエの聞く姿勢を見たジュリーは、幼い頃から聞かされていた伝承を語りはじめた。



― 三人の女神が世界を創造した。名を『ティファトス』。
創造神アルティナは人々と世界の核心を、永遠神ディーファは世界の核心を護る神々と精霊達を生み出し、英知神リィトスは世界の者全てに知識と成長を与えた。

ティファトスはみるみるうちに発展、成長し栄えた。しかし、とある時代で世界規模の大きな戦争が起こり、多くの生きとし生けるものが失われた。
それを見た永遠神ディーファはとても哀しんだ。彼女は人々と世界を想い、自身の『五つの力』を捧げた。

永久の力を大地へ、
再生の力を世界樹へ、
浄化の力を海へ、
祝福の力を生命の祠へ、
魔法の力を指輪へ。

五つの力を分散させた事を知った英知神リィトスは激怒した。これでは簡単に人間が神の力を手に入れてしまう。
さすれば人々は神を必要としなくなり、更に強い力を欲する。そして我ら創世の神々にすら、その矛先を向けるだろうと。

リィトスの予想通り人々は五つの力の一つ、ディーファの指輪により[魔法]を手にした。
魔法で栄えた人々は更なる力を求め、争うようになった。
ついには永遠神ディーファの力を狙い、彼女を瀕死に追いやった。
それを聞き付けたアルティナとリィトスはディーファを回復させようとした。しかし、ディーファはそれを拒み、転生を望んだ。
リィトスはディーファの願いに反発したが、アルティナが彼女の想いを汲み取り、ディーファの転生に力を貸した。

ディーファの転生により新しい人種、エルフ(フェリアベルエルフ)が生まれた。
リィトスはディーファという存在を消した人々と、彼女を糧として生まれたエルフを酷く憎んだ。
その憎しみはリィトスを徐々に蝕んでいく。
強い憎しみに駆られたリィトスはエルフを殲滅するために、ダークエルフ(ハクディーアエルフ)を生み出した。
その為ダークエルフはエルフに強い敵対心と妬み、恨みを持つ闇に魅入られたエルフとなった。

その後リィトスはアルティナ、更には世界をも憎むようになった。
彼女は人々の繁栄を防ぐ為、全ての命あるものに命の限界を与えた。
たちまち人々は死を迎え、一気に人口は減ってしまう。
それに嘆いたアルティナはリィトスと話し合おうとしたが、リィトスは聞き入れず世界を壊そうとした。
アルティナはリィトスを止める為に彼女の杖を奪い、詠唱を阻止した。それでもリィトスは世界を憎み、自身の力で自害してしまった。

残されたアルティナはディーファの存在の死とリィトスの死を悔やみ、彼女らの為に力を注いだ。

まず英知神リィトスの為に心の悪しき者が神の力に触れられぬよう結界を施し、
次に不死でなくなった全ての生きとし生けるものの為に転生の力を与えた。
そして永遠神ディーファの為、エルフに風の加護を与え、彼らに襲い掛かるダークエルフから護った。
最後に、手元に残ったリィトスの杖が憎しみで暴走せぬよう、杖から魔石を外し別々に違う場所へ封印した。

全てを終えたアルティナは自ら貴石となり、それぞれの封印を解かれぬよう今でもずっと魔力を送り続けている…―

「……以上よ。」
「な、なんか…すごい話やな…。」

一番印象的だったのはディーファの転生が無ければエルフは存在しないこと。
つまりジュリーにこうして出会わなかったかもしれないという事だ。

「何かわからない事はあったかしら?」

「んーと。あ!最後やねんけどな、アルティナさんは今もこの世界のどこかにおるんかな?」

サエは改めて頭の中を整理し、落ち着いてジュリーに問い掛ける。

「この伝承自体の真偽がわからないから、確証は無いけれど…私はいらっしゃると信じているわ。」

「えへへ、一緒!私も三人の女神さんはおって、今もアルティナさんは居るって信じるで!!」

きっと居る、信じてる。二人は互いに顔を見合わせ笑いあった。

「ふふっ。サエは本当に真っすぐな人ね。話も一段落したし、貴女に聞いて貰わなければ…」

「なんか話す事あるんやっけ。なになに〜?」

「あ、言い方が悪かったわね。話すのは私じゃないのよ。さあ、行きましょうか。」

ジュリーはスカートの皺をパッと直して立ち上がる。

「へ?どこに?」

「さて、どこでしょうね。」

サエはジュリーに差し延べられた手をとり、部屋を後にした。

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あきゅろす。
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